屋敷に戻ると
一息つく暇もないくらい
ヘジャの用意したクッパを
さらさらと流し込み
ウンスはチェヨンを
急き立てるように中庭に
いざなう


そのように慌てずとも


だって   
まだまだやりたいことが
あるのに
まったりしてたら
日が暮れてしまうわ


ウンスがチェヨンの
手を引っ張るように歩く


そう言えばこれと決めると
一歩も引かない
火のごとき女人であったと
チェヨンは思い出し笑った


なによ


ウンスが怪訝な顔をして
チェヨンを見る


いや   なんでもない
なんでもないが
イムジャは昔から
こうと決めたら
突き進む女人で
あったと思うてな


そうよ
今頃思い出したの?
だって早く
さくらんぼ狩りを
したいんですもの


山桜の木の下に着くと
チェヨンは


合い分かった
そこで待っておれ


するすると器用に
木の上に登って行く
様子を見に来たテマンと
ヘジャも感心するくらいの
鮮やかな木登り


テマン籠をここに


チェヨンがテマンに
声をかけると
水を得た魚のように
チェヨン以上に軽々と
木に登っていった

下にいたウンスが
思わず拍手するくらい
敏しょうな動きであった

チェヨンは
まだ少年とも言えぬ子供の頃
山の木の上で
ひとり暮らしていたテマンを
懐かしく思い出した


木登りは久しぶりか?


チェヨンが尋ねる


はあ   そういやそうだ
最近は屋根にばかり登っているから


テマンが山猿だった頃のように
ニカッと笑って答えた
チェヨンはすっかり大人に
なったテマンを感慨深く見つめた


では   テマン
あの上のほうの実まで採れるか?


山桜のてっぺんを指さして聞いた


ああ   お安い御用
じゃあ  ちょっくら行ってきます


頼むな


はい


テマンはあっという間に上に
たどり着いたようだった

チェヨンは自分の周りの
山桜の黒ぐろとした実を
摘み取る
ウンスがそれを下から眺め


もう少し右寄りよ
いや  あと少し左にあるわ


チェヨンに声をかけている
ヘジャはふたりの楽しそうな
声を聞きながら
大旦那様と大奥様も
こんなだったのだろうかと
思いを馳せた

熟した実をある程度   摘み取ると
チェヨンはまたするすると
降りてきた
手持ちの籠をウンスに見せる


うわーすごい!
大豊作ね
お母様からの贈り物なのよ
しばらくぶりに実がなったって
ソンオクが言ってたもの


弾けるような笑顔で
ウンスが言った


そうか
この季節を屋敷で過ごすのは
久しぶりゆえ
気がつかなかった


うん
そうか   そうよね


ウンスが優しく頷く
チェヨンは籠から一つ
山桜の黒ぐろとした実をつまむと
ふっと息を吹きかけてから
ウンスの口に運んだ


うーん
甘酸っぱい


ウンスが目をきゅっと閉じる
そしてまた口を開けた
チェヨンが先ほどと同じように
また口に運ぶ


あら
これはすごく甘いわ


幸せそうに笑って言った


その艶やかな口元に
艶やかな山桜の実が
収まるたびに
チェヨンはその唇ごと
食べてしまいたくなる


イムジャ   うまいか?


うん    おいしい
ヨンも食べる?


ウンスはチェヨンの
口に山桜の実を放り込む


ああ   なんとか甘いな


ふふっ
ねえ    たくさん採れたから
あとは鳥さんに
残しておきましょうか?


ウンスが提案すると


そうだな
テマン
テマン   もういいぞ
十分だ


せっせと狩りをしていた
テマンが我に返り
はーいと返事をすると
駆け降りるような速さで
地上に戻ってきた


今から   ヘジャと料理してくる
ヨンは昼寝でもしていてね


イムジャと昼寝ではないのか?


チェヨンががっかりしたように
呟いた


すぐ終わるから
待っていて
テマン   さくらんぼを
持ってヘジャと厨房まで来てね


はーい


甘い甘い香りを放ち
山桜の実がチェ家の
厨房に運ばれる

そろそろ夕暮れが近づいていた


*******


『今日よりも明日もっと』
甘い桜桃よりも
あまいふたり





3話目のアップ完了
やはり
パソコンはダウンし!(´Д`;)
スマホからの
入力に切り替えました
大丈夫かな?

スマホは入力に少し時間が
かかるharuですが
なんとか書き上げたいなと
思ってます

また後ほどお会いできますように