通りの外れの路肩に輿を止め
そこからはふたり並んで
いつものように歩いた
チェヨンの唯一の私兵であろる
テマンが後からにらみを利かし
2人の行く手を 見つめている

朝の市も終わった頃で
人通りもまばら
そぞろ歩きにはちょうどよい

チェヨンはウンスの腰に
手を回し ウンスが
離れぬように
転ばぬようにと
気をつけながら
ウンスの歩調にあわせて
ゆっくりと歩いていた

最近は少しお腹が重たくなって
歩くと腰が疲れるように
なっていた
チェヨンにかかえられるように
歩くのは 恥ずかしくもあり
また幸せでもあった

市を見物していると
道の途中で
大きな空き地があった


ここって・・・


ああ 例の火元になった飯屋と
その周りの店があった場所だ


はじめて見た
こんなに大きな
火事だったなんて


ウンスは
びっくりしたような顔で
辺りを見回す


そうか イムジャは初めてか
これだけ大きな火事場で
よく誰も死ななかったものだと
典医寺がすぐに火傷の患者を
受け入れたからだと
民は口々に感謝しておったぞ


ほんとに??


ああ 

 
これだけ大きな火事だとは
思わなかったわ
みんな助かってよかった
それに 飯屋のご主人も
流罪ですんでよかった


そうだな
きっと 典医寺の皆が
一生懸命助けた命
無駄に処刑してはならぬと
役人も民も思ったので
あろう


そうかな
そうだといいな
スヨンさんたち
いまどの辺りかしら?
まだ島につかないわよね 
遠いもの・・・


ウンスは主人と娘の
新しい暮らしを選んだスヨンを
思い出していた


ふたりが通りを歩いていると
行き交う民や 店の者たちが
代わる代わる挨拶をしてくれた


これは 大護軍様 医仙様
こんにちは
ようこそいらっしゃいました


なんだかすっかり有名人ね
これじゃあ もう饅頭屋で
大きな口をあけて
食べられないわね うふふ


民達の歓迎に戸惑いながら
ウンスが笑った


まあ よいではないか
大口開けてうまそうに食べる
イムジャを見ているのは
楽しいゆえ


なんだか 見せ物みたいな
いいかたね
ヨンたら ひどいわ


ウンスがチェヨンの
腕をきゅっとつまむと
ふくれて見せた

どう見ても
はじゃれているようにしか
見えないふたりを
テマンは後から見て
うれしい心持ちで 独り言


大護軍は医仙様といるときは
いつもお幸せそうだ
それにしても人目もはばからず
あんなにひっついていて
いいのかな?
あれじゃあ もう大護軍の
体面もないと思うな


そうこうしているうちに
織物屋の店先にたどり着いた


奥から店の主が飛んで出てきて
うやうやしく礼をする


これは これは
大護軍様 奥様


あるじ 夏物の生地を
見せてはくれぬか
なるたけ 透けぬ生地を


はあ 夏物は薄いですので
透けぬ生地など
ございましょうか?


主は思案顔だ


ほら 薄い生地の方が
涼しいに決まってるわ
だって 夏だもの
それでなくても妊婦は
暑がりなのに
ヨンの言う通りにしていたら
暑くて倒れちゃうわよ


ウンスはほれ見たことかと
顔をする
まだ
納得がいかないチェヨン


なれど あのように
胸元の開いた衣など
もってのほか!
もう少し 
こう・・・おとなしゅうは
ならんのか?


無理よ
ほら~ どれもこれも
手が透けて見えるでしょう?


反物に手を合わせ
かざしてみると
反対側の手が 指の形まで
よく見えた
チェヨンは小さく
ため息をついた


ヨン わかったでしょう?
夏物なんてみんなこうよ
今日はもうやめときましょう
着てない衣も
まだ たんとあるのよ
もったいないわ


なれど・・・
せっかく来たのだから
一枚くらい新しい衣を
こしらえてはどうだ?


店の主も横で大きく頷く


いいわ 今日は
気持ちだけで十分よ


と 言い
ウンスは主の方を向いて


それより 
お願いしてあったものは
出来てる?


と 店の主に尋ねた


主はにこりと笑って
店の奥に姿を消した


テマン後は頼むわね


ウンスが声をかけると
心得たように
テマンが はい と
元気に返事を返した


*******


『今日よりも明日もっと』
初夏の陽射しを浴びて
そぞろ歩き
それもまた 楽し


にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村