山桜の実をうれしそうに
口に含むウンスを
ソンオクが懐かしそうに
見つめている
そして
縫い物の手を止めて
ぽつりと言った


奥様を思い出します


え?


あ いえ 
失礼いたしました
大奥様でございます


ああ お母様ね


はい 
山桜に実がなると いつも
奥様のようにうれしそうに
お召し上がりでした


そおなの?


はい さようで
もう随分
月日が流れたと言うのに
つい昨日のように
思い出されます


ソンオクが遠い目をして言う


そお
お母様の樹だものね
あの山桜


はい 
いつもはお忙しい大旦那様が
あの実を採ることだけは
人任せにせず 
ご自分でなさいまして・・・
大奥様もその様子を楽しそうに
眺めておいででした
それはそれは 仲睦まじく
坊ちゃまをお生みになり
お加減が優れなくなってからも
あの実だけは召し上がられて
おりました


そうだったの
あの実は甘いのかしら?
渋いって話も聞くけど


あの山桜の実は甘いはずで
ございます
不思議なことに 大奥様が
亡くなられてから ぴたりと
実がつかなくなりましたが
またこうして たわわに実って
おります


ソンオクは中庭で
風に揺れる山桜の葉の陰から
時折 顔をのぞかせる
赤黒い実を見つめている


きっと お母様の贈り物ね
お腹の子は初孫だもの
この子に食べさせたいのよ


そうかも知れませぬ
それに 奥様にも


私?


はい 
坊ちゃまを幸せにして
くださったと
感謝しておいでですよ


きっと そうですよ
医仙様


ポムが鼻の頭を赤くして
頷いている


そうだとうれしいわ
みぃ 
父上に母も 甘い実を
採ってもらわなきゃ
お父様とお母様みたいにね
チェ家の幸せの実なのよ


ウンスが優しく微笑み
母親の顔をして
お腹をさすった


ソンオクはそれを聞いて
ぽたりと涙を流した


どうもこのところ涙腺が緩く
奥様の御前でこのような醜態


いいのよ ソンオク
ありがとう
いい話を聞かせてもらえて
よかったわ


ウンスの目もどことなく
赤くなっていた


ポムはまだ ぐすりと
泣いていたが
突然 ぎゅーっと派手に
お腹が鳴った


その場が一瞬しんとなる
それから
思わずウンスがうふふと笑い
釣られて
ヨンファもソンオクも
くすくす 笑った


ひどい 皆様!
今日はポムは
散々でございます


ポムの抗議が
可笑しくて 可愛くて
部屋の中は一気に笑い声に
包まれた

いつのまにか
客間を離れ厨房でなにやら
用意していたヘジャが
頃合いを見計らったかのように
蒸かしたての饅頭を持って
戻ってきた
湯気がふわふわと立ちこめ
いい匂いがする


ああ いいにおい お饅頭ね
さすが ヘジャね
よくわかってるわ
さあ みんなで食べましょう


ウンスがうれしそうに笑い
みながそれぞれ
饅頭に手を伸ばす

ウンスはヘジャの作った
素朴で美味しい
お饅頭を食べながら
王宮にいるチェヨンを想う


今宵 ヨンは
早く帰って来るだろうか
そうしたらまた 庭を
手を繋いで歩きたい
なんだか すごく
顔を見たくなってしまった
愛しい旦那様
今 何しているだろう?


ウンスはみぃをさすりながら
くすりと微笑んだ・・・
山桜の実も笑っていた



*******



『今日よりも明日もっと』
受け継がれるチェ家の庭
山桜の実を
受け継ぐ その幸せ




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