ピンと張り詰めた冷たい空気が
閨の中に満ち満ちている

外はまだ冬

婚儀をあげてわずかばかりしか
日もたっていない冬の朝

寒々とした外気とは裏腹に
床の中の温もりは
言い表せない幸せを
チェヨンに運ぶ

腕の中で眠る恋しい女人は
妻となりて我ものになる

ずっとこのまま共にいたい
だが
王宮でのお役目という無粋な
ものがふたりを引き裂く

いまいましいとは
こう言う時に使う言葉かも知れぬ
チェヨンはぼつりと呟く

すやすや眠る妻を起こさぬように
火を起こしに外へ出ようと
身支度を整える

屋敷にはふたりきり

門番代わりの衛兵を
屋敷の外に
配してはいるが
いてもいなくても
かわりないようなものだと
チェヨンが一番わかっていた

出来るだけ自分のそばに置き
危険な思いなどせぬように
イムジャを守りたい
ほんとは床を離れるこの一瞬さえ
もどかしいというのに
当のイムジャは呑気なもので
うつらうつら

チェヨンの気配に気づくと

ヨン    どこ行くの?と
寂しげにチェヨンの腕を掴む

そのようなかわいい声で
そのような仕草をされると
どうしてよいかわからなくなる


火を起こしに外へ
寒いゆえ
もう少しここにいろ


わざと素っ気なく言うと


うん
でも   毎朝旦那様にそんなこと
させて申し訳ないもの
待って    一緒に行く


ウンスが布団から這い出し
ぶるると震えた
何も纏わぬ自分の姿に気づくと
顔を赤らめ布団を引寄せる


見た?見たでしょう?


いや    何も見ておらぬ
が   別段   困ることはあるまい
もう何度も見ているぞ


違う   違う
油灯の下で見られるのと
朝の日差しの中で見られるのでは
全然違うわよ    恥ずかしさが


そんなものか?まだ薄暗いが
と    チェヨンがひとりごちる


ウンスはばたばと支度をし
下手くそな着付けをチェヨンに
手伝ってもらいながら
なんとか着替え終わる

医術を施す時の
器用さが嘘のように
幼子かと思うほど
手がかかることがある妻を
チェヨンはまた愛しく思う

二人で厨房に向かい
オンドルに火をつけ
食事の準備のための
火起こしをするチェヨン

手伝おうとするウンスに
火傷でもしたら如何する
と   制すチェヨン

湯が沸いたら桶にとり
自分は水でバチャバチャと
済ませるくせに
ウンスの洗顔の準備をし
ウンスがうれしそうに
石鹸を泡立て丁寧に洗う様を
横目で眺め   洗い終わると
手ぬぐいでそっと水滴を拭き取る
チェヨン

朝餉の準備はウンスがするが
離れることなくそばで見守る

甲斐甲斐しく
朝餉の支度をする妻の
後ろ姿に我慢出来ずに
時々抱きすくめては
わるふざけ
その柔らかな髪に鼻先を埋め
その芳しい首筋に印をつける


もう  これじゃあ
ちっとも支度が進まないわ


呆れるウンスを抱きしめて
その口を塞ぐチェヨン


やっとこさ   できた朝餉を
ふたり卓に並んで座り
うまい   うまいと食べ尽くす頃
薄暗かった辺りが
しらじらと明けてくる


さて   そろそろテマンが
来る頃か?


自室にいるウンスに声をかけ
部屋の中を覗くと
軽く化粧をして
紅をさしただけで
一段と艶やかに映る妻に息を飲む
チェヨンが仕立てた衣を身に纏い
美しい新妻に自然と頬が緩む


なによ


照れたのか
わがと釣れない素振りの妻に
これまた照れたのか
チェヨンがふいと横を向き


まともになど見れぬ
また欲しくなる
チェヨンはまたひとりごちる


そうしてやっとふたりの
朝の支度が終わると
奥の間で  ウンスから鬼剣を
受け取り
「今日も一日ご無事で」と
祈るように言われると
きりりとした大護軍の顔に
変わった

チェヨンは
愛馬チュホンにまたがり
ウンスをしっかり抱き抱えると
ゆらりゆられて
王宮へと   道を進む

ふたりの行く道の先には
何が待ち受けているのだろう
きっと今より   まだまだ
幸せが待っているに違いない

弾む心を鎮めるように
チェヨンはふたたび  ウンスを
しっかり抱きしめた


冬の朝の
かじかむような冷たい空気も
ふたりでいる限り
寒い気がしなかった
朝陽が雲間から差し込んでいる


*******


『今日よりも明日もっと』
穏やかな朝を迎え
いつもと変わらぬ日常が
始まる幸せ





チェヨンサイドの一日を
恋慕のテーマで
追いかけてみたいと
思います

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ご容赦を