ソンオクから届いた一報で
慌てて屋敷に戻った
チェ尚宮であったが

甥 チェヨンの姿は
どこにもなかった

王様が次々変わり
王宮で落ち着く暇など
なかった
武閣氏を束ねる役目があった
元が王の弟君を人質に
差し出すようにと要求し
その為
護らねばならぬ人も多かった


いや・・・言い訳だ
兄上が亡くなってから
甥 チェヨンを見ているのが
忍びなかった

もっと話を聞き
寂しさを分け合えば良かった
唯一の肉親なのだから

だが もはや 甥は
手の届かぬところへ
行ってしまった
胸に苦みだけだ残った


ソンオクに確認する


ムンチフ殿とともに
行ったのか


はい 赤月隊とともに
お引き止め出来ませんでした


と 申し訳なさそうに
ソンオクが答えた


そなたのせいではない
だが
厳しい道じゃ
それを選んだか


はい・・・


王家より拝領せし
庭の月桂樹の花が
見事に咲いていた
その香りを吸い込みながら
チェ尚宮が
誰に聞かせるでもなく
ぼそりと言った


ヨンよ そなた
これよりは花ではなく
影として生きるか
なれど
この叔母の最後の頼みだ
どうか 生きよ
生きてくれ


*******


抱きしめられた腕の中で
チェヨンの体温を感じた


ほら もう泣くな


伝わる雫を 
指で優しく拭って
チェヨンは
ウンスの目尻に口づけた


泣き虫だな


ヨンが悪いのよ
初めて聞いたもの
たくさん
寂しかったろうな
そう思ったら


今は寂しくなどない
俺には 俺の為に
こんなに泣いてくれる
いとしい妻がいる


うん


チェヨンの顔が
ゆっくりと
ウンスの顔に
近づいてくる

ウンスが目を閉じた
唇が触れ合う 
そう思った時


ばたん


扉の開く音がして
チュンソクが
「大護軍!」と
呼びかけた

そして
目の前のふたりを見て
固まった・・・


デジャヴかしら? 
テジャン?


泣き笑いのように言う
ウンスに
チェヨンは聞いた


でじゃぶう?


ええ 前にも
こんなことがあったわ
あなたが
まだ
テジャンだった頃よ


ああ あの時か
触れたくて
触れられなかった
過ぎし日が
脳裏に浮かんだ


間の悪いところは
変わらぬな


チェヨンが笑みを漏らす
ウンスが
その目を見つめて
微笑み返した


す すみませぬ
身を縮こまらせて
チュンソクが言う


ああ かまわぬ 
あの時の俺ではない
遠慮などせぬ


チェヨンは深く
ウンスに口づけた


********


屋敷の渡り廊下から
中庭におりて
ウンスとともに
手をつないで歩いた

庭の真ん中に鎮座した
月桂樹の黄色い花が
咲き始めていた
相変わらず
芳しい甘い香りが
庭に広がる

庭の隅では 
そっとチェヨンを
見守って来た山桜の木
もう ほとんど 
葉桜に変わっていた


月桂樹はお父様ね
山桜はお母様の木だわ


ウンスが
山桜の木の下で
チェヨンに微笑み
そう言った


どちらもヨンを
見守ってくれた

そしてこれからも
私達を みぃをそして
これからまだ
生まれるかも知れない
私達の子どもも孫も
ずっと
見守ってくれるわ


そうだな


チェヨンは
つないだ手をきゅっと
握りしめた


すっかり葉桜のはずの
山桜の木から
ひらひらひらと
薄紅色の花びらが
ウンスの元へ
舞い落ちてきた


お母様の贈り物かしら?


そっと手のひらを広げ
花びらを受け止めると
ウンスが言った

ふわりと月桂樹の香りと
ともに 
桜の香りがした気がした


チェヨンは思った
幼き頃よりこの香りに
包まれて来た気がする

この二本の花樹に
見守られ導かれて来た

そう 決してひとりでは
なかった
今も これからも

初めて出逢った時に
感じたウンスの香り
忘れてかけていた
記憶が蘇る


そう言えばこの香り 
イムジャの香りに
よく似ておる


私の? そお?


ああ・・・
懐かしいが 切ない
切ないが 甘く
そして 優しい 
手放せぬ香り


うふふ 
今夜も手放せない?


ウンスが笑って尋ねた


ああ 勿論


私もよ


ウンスが繋いだ手を
きゅっと握り返した



*******



『今日よりも明日もっと』
二本の花樹に見守られ
ふたりの明日は続いていく






゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆


sawa-lai 様

昔何処かでかいだウンスの香り
それを思い起こさせる
少年時代のエピソードを
と言う リクエスト
ありがとうございました

最後の最後になりすみません
リクエストとは若干違うかな?
そう思いましたがharu色に
染めてみました
お楽しみいただけると
うれしいです

゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆


次回よりサブタイトルが変わります
お楽しみに・・・



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