背中に柔らかな
感触を感じた

この あたたかさは・・・

ふっと 笑みがこぼれて
チェヨンは 現実に
引き戻された


イムジャ どうしたのだ?
このような時間に兵舎に
来るとは


まだ昼餉の時間まで
間がある頃であった


王妃様の回診が終わって
ヨンに会えるかなと
思っていたのに
康安殿の辺りでも
見かけないし
なんとなく気になって


そうか
それで どうして
背中に?


なんだか 背中が
寂しそうだったから
何かあったのかと思って


窓を向いたままの
チェヨンの
腰に手を回した


思い出していたのだ
赤月隊に入ると
決めた日のことを


そうなの?


ああ
ちょうど葉桜の頃であった



*********



桜が葉桜に変わる頃
庭の月桂樹の黄色い花が
見事に咲いた

冬の間のつぼみが一斉に
花開き
屋敷の辺り一面に
その香を放っている


ちょうど
父上の四十九日の法要が
過ぎた頃の朝であった
ムンチフがチェヨンに
尋ねた


この花のようになりたいか





お前ならなれる
ここに残り文臣として
王宮に仕えるならば
お前は
どんな芳しい香りでも
放つことができる
地位や名声 家柄にあった
役職すべて手に入れられる
であろう


俺はそのようなことは
望んでおりません
それに父上が臨終の間際に
残した遺志は
忌服など考えるな
国のために
己の道を行けと


国のためか・・・
と 翳りのある顔で
ムンチフは言ってから


それがどんなに困難な
道であってもか


と 尋ねた


かまいませぬ
父上は父上がなし得なかった
ことをお前はせよと
言われました
それは 文臣では出来ぬこと
俺は武士として 父の遺志を
継いで生きていくと
そう亡がらに誓いました


そうか


それに 此処に一人 
置いていかないでください
にぎやかだった屋敷が
このようにひっそりと・・・

此処に一人
いるのが辛いのです
此処は母のなくなった場所
父が逝ってしまった場所


16歳のチェヨンの目から
一雫の涙がこぼれ落ちた

チェヨンは
父上が段々とやせ細り
苦しんでいる様を見たときも
父上が死んだ日も
人前では
決して泣かなかった

耐えよ 
チェ家の跡取ではないか 
心の声がそう言っていた

四十九日まで
父の棺をひたすら守って来た
自分が食事をする事すら忘れて
死んだ後も父に寄り添って来た

その父が 土に還り
もう二度と
その姿を見ることはない

父の声が恋しかった
父の優しさが懐かしかった
母が亡くなってから
父が
チェヨンのすべてであった
その父が もういない


お願いです
連れて行ってください
置いていかないで
此処にはもう何もないのです


すべてを捨てて
チェヨンは屋敷を後にした
16歳の春の出来事であった


*******


背中でむせび泣く声が
聞こえた


イムジャ
イムジャが泣いていかがする


いいの
夫婦は一心同体なのよ
あなたの代わりに
私が泣くの
16歳のあなたの代わりに
いま 私が泣くの


腰に回した腕に力を込めて
しがみついた

その腕を優しく解き
チェヨンがウンスの方に
向き直り その顔を見た


泣いてくれているのか
だが もう泣かなくて
よいのだぞ
俺は一人ではない
これからは家族が増える
一方だ


柔らかく笑って言った
それを聞いた ウンスは
しゃくり上げるように
泣きながら


私 何人でも生むわ
あなたの子ども
いくらでも温めてあげる
あなたの心


イムジャ 
俺は もう十分温かい
屋敷に帰ると
心が落ち着くぞ
イムジャの待ってる
場所だから


うん


だからもう泣くな


うん


頭を抱えるように
抱きしめて


ずっと一緒だ


そう呟いた


********


『今日よりも明日もっと』
そばにいるだけで温かい 
あなたの心を守りたい




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