チェヨンよ
腕を上げたな
もう3年以上になるか?
俺と手合わせを
するようになって


黄色い小菊が風に揺られる
屋敷の中庭で
ムンチフが言った


どこぞの軍の兵士よりも
もはや強いであろう


いえ 師匠には今でも
まったく歯が立ちません
でもいつか 勝ちたい


きらきらとした意志の強い
黒い瞳の
チェヨンが意気込んで言った

その直後
ムンチフによって
ぱーんと剣で弾かれて
後方へ飛ばされた


意識を集中させよ
余計なことは考えるな
斬るか 斬られるか
武士にはどちらしかない


はい


尻餅をついたチェヨンに
手を差し伸べて


だがな 
お前はチェ家の 跡取 
お父上のように文臣の道を
進む者ならば
これだけの腕があれば
まず 我が身くらいは
護れるであろう
もう十分ではないか?


いえ 師匠
俺は 我が身ではなく
民を 王様を 国を 
護りたいのです
なれば まだまだ力が
足りません


疑うことを知らぬ16歳の
チェヨンが ムンチフに
そう告げた


民と王と国か・・・


神妙な面持ちで
ムンチフが繰り返す


ソンオクがやって来て


お稽古はもう仕舞いで
ございましょうか
旦那様が ムンチフ様に
ぜひとも 
一献差し上げたいと


今参る と
お伝え下され


ムンチフが言った
ソンオクが頭を下げて
かしこまりました と
言ってから
チェヨンの方に向き直ると


坊ちゃま
許嫁のポム様と兄上様が
屋敷にお越しにございます
今日は
お逃げになりませぬように


許嫁か・・・
お前も大変だな


ムンチフは愉快そうに笑った


笑い事ではございません
家同士の約定とはいえ
相手はまだ乳飲み子
話もまともに出来ませぬ


チェヨンはやれやれと
言った顔をして
ため息をついた


屋敷の外で待つ 
おなごたちは如何致しますか
また 
贈り物の山にございます


知らぬ
捨て置け


お前も隅に置けぬな
少しくらい
相手をしてやれば
良いではないか


はあ?
そのような面倒なこと
いたしませぬ


ではこのまま
パク家のご息女が
大人になるのを待つつもりか


そのようなこと!
なれど もしかしたら
いつか俺にも 守りたい
おなごが現れるやも知れません


では パク家のご息女は
どうするのだ


知りません
本当に 迷惑しておるのです
家同士の取り決めなど
では 師匠 俺はこれにて


坊ちゃま 今日こそは
いて頂かなくては
ソンオクが困ります!!


あとは よしなに


大声をあげるソンオクを
尻目に
チェヨンは裏門から
風とともに去っていった


*******


客間に案内されたムンチフは
チェ・ウォンジクのからだを
見て 
少し痩せたな とそう思った

高官の身分にありながら
驕ることなく
また 権力に媚びることなく
反対勢力に屈することなく
淡々とその職責を担っている
そんな父親だから
息子を鍛えてやって欲しいと
頼まれた時 二つ返事で
引き受けた

そして実際 チェヨンは
ムンチフが認めるだけの
素質も兼ね備えていた


愚息の剣の腕前は如何で
あろうか?


もの静かに
チェ・ウォンジクが尋ねる


はい 赤月隊の若い奴らにも
勝てるやも知れませぬ
かなりの腕前に
ご成長あそばされました


そうか


そして ご子息は
稀に見る 天賦の才を
備えております


それはどのようなものか


文武両道はもちろんのこと
おそらく気を操れるかと
よき内攻使いとなれましょう


そなたのようにか


修練を積めば
某以上でございます


さようか


チェ・ウォンジクは客間から
中庭の山桜の枯れ木を見つめた
春になると美しく咲く
あの桜の花は 亡き妻が
病床から愛でていた思い出の花

その山桜が いまは
固い芽となり 来る冬に備えて
いるかのように見えた

チェ・ウォンジクは
深々と息を吐き出して
ゆっくりと 
ムンチフに言った


息子が望めば
連れて行ってくれるか?
実は わしは もう
そんなに長くは
生きられぬようだ
幼き日に母親を失い 
これからと言う時に
今度は父親まで・・・
息子が不憫でならぬ
そなたを慕っておることは
知っている
連れて行ってはくれまいか


なれど 
我が道はいばらの道
何も好き好んで選ばずとも
パク様の後ろ盾があれば
文臣としても
立身出世は間違いないかと


そう反駁したムンチフに


己の道は 己で掴めと
息子に教えたいのだ


そう言った


*******



『今日よりも明日もっと』
媚びることなく
へつらうことなく
ただまっすぐ 前を見て進め




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