鏡に映る自分の姿
左の首の付け根
肩のラインについた
いくつかの印

見つけるたびに
顔がほてる
もう妊婦に何させてるのよ!
ひとり怒った振りを
してみても
すぐに顔がほころぶ

昨日はふたりで過ごした
はじめての誕生日だった

部屋で支度をしていると
聞こえてくる
床のきしむ音
ぎぎっと扉の開く音

もうすぐあの人が
後から抱きしめてくれる
ウンスはじっと待つ


支度が早いな
からだは大丈夫か?


案の定 チェヨンがウンスに
ぎゅっと後からしがみつき
鼻先を首筋に当てる


辛いわよ
それにそこ 


チェヨンの鼻先を指差す


あ?


ほら
たくさん赤いシミ
お休みして
何やってたんだと
思われちゃうじゃない
お腹に子もいるのに
無理させ過ぎ


まさか みぃに
何かあったのか?


急に怖い程 心配そうな顔
をして ウンスに尋ねる


そうじゃないわよ
でも・・・


イムジャが悪いのだ


どおしてよ
私 何も悪いことなんか
してないもの


よい わからずとも


今度はチェヨンが
拗ねたような
声を出した
そんなチェヨンの
頬を優しくなでて


まあ いいわ
よくわからないけど
今回は 誕生日に免じて
許してあげる


それに 
ほんとはよかったし
小さい声で付け加えた


何か 言うたか?


いえ 何も



*******



休み明けの典医寺
首元が開かないように
気をつけながら
回診の準備をする


チェ侍医がさらりと
ウンスの出で立ちを褒めた


今日は一段と
あでやかですね
桜色がよく お似合いですよ
それにその髪留めも
みたことがありませぬな


うふふ よくわかるわね
これね
あの人が買ってくれたのよ
誕生日にって


うれしそうに話す


そうでしたね
昨日はお生まれになった日とか
お喜び申し上げます


あまりうれしいって
年でもないわ
でも誕生日を
祝ってもらえるのって
やっぱりいくつになっても
うれしいものなのね


そうですか?
では これも役に立ちますか


チェ侍医が懐から
何かを取り出した


まあ 
綺麗なポッチュモニ(福巾着)
これを?私に?


ええ


うれしい 
あ でもヨンが拗ねるかしら?
他の男の人から貰うなんてって


その心配ならご無用ですよ
トギにも 典医寺の他の者にも
配りましたゆえ


相も変わらず気配り 目配り


トギが帯に
赤いポッチュモニをつけて
診療室にやって来た


ほらね


チェ侍医が指差す


ほんと じゃあ
ありがたく使わせてもらうわ


よかった・・・
あなたの笑顔がみられて


心の中で チェ侍医は
ひとり呟いた


そうそう 聞きたいことが
あったのよ


思い出したようにウンスが言う


はて 何でしょう?


ウンスが藤色のポッチュモニを
帯につけるのをみながら
静かに聞いた


あのね 光守のこと
えっと 
チェ侍医のおじい様のこと


はあ 祖父が今更何か?


あのね 光守と一緒にいた
下男のこと
ネルグイって言うんだけど
知らない?


さあ 私の記憶には
ありませんが・・・
ただ 華州が焼け野原になって 
暫くはそこにいたと
その時 病人や怪我人の世話を
していたようだと
父から聞いたような気がします


そう・・・
いい医者になろうと
思ってくれた時はあったのね


ウンスは少しだけ
救われた気になった


そのネルグイとやらが何か?


うん・・・どうも
因縁がありそうなのよね
私もヨンも・・・


大護軍もですか?


その問いには答えずに
ウンスは思いを巡らせた
確かに ヨンの言う通り
私のせいではないのかも知れない
あの時は ただヨンに会いたくて

天結をくぐるのに
いらないものはすべて手放した
ただ 会いたい
気持ちだけ持って・・・
だから ここに戻れた
今 私はこうしてあの人と
暮らしている

では渡された方は
どうだったのだろう
光守は夫婦仲もうまくいかず
不幸せな晩年だった
その孫の チェ侍医も
ずっと憎しみとともに
生きて来た

ネルグイは沙羅を探し求め
天界の道を欲するあまり
キチョルのような
内攻使いを育てた
その力によってキチョルは
自滅し また憎しみが
残っている・・・

不安げなウンスの表情を
チェ侍医は読み取り


なるべくしてなるのが
人の運命です
時の悪戯があったにせよ
なかったにせよ
そう大きく変わるものでは
ありませぬ


ヨンも同じこと言ってた


そうですか
医仙様が気に病んだところで
もう過ぎたことです
それに 今はお幸せでしょう
医仙様も 大護軍も


ええ


私も 幸せですよ
おかげさまで・・・


そお?


はい


そ よかった


ウンスは深々と息を吐いた


*******


『今日よりも明日もっと』
昨日は今日
今日は明日へと繋がっている
簡単なことなのに
それがひどく難しいこともある



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