んっ
んっ!

ウンスが拳でチェヨンの胸を
とんとんと叩く
はっとしたように
やっとチェヨンがウンスの
唇を離した


もう 長い!


ウンスは少し拗ね顔だ


話が全然進まないじゃない
ほんとはやっぱり
言いたくないんでしょう


チェヨンを覗き込むその瞳が
少し潤んでいるように見えて
また 抱きしめたくなる


すまぬ
つい・・・


ウンスの拳を
きゅっと手のひらで包み
その拳をゆっくり開かせると
チェヨンは聞いた


で どこまで話したか?


だから キチョルもいた
って衝撃の事実までよ


ああ 
大したことではあるまい
もともと 貧寒の家柄
アンジェの父親やムンチフ隊長の
ような力のあるものに媚びて
その日その日を暮らしていたので
あろう・・・
今の俺くらいの年齢だったのに
役職はおろか王宮に出仕すら
していなかったのではないか?
あのように
絶大な権力を握ったのは
妹が元の皇后まで
登り詰めたからに他ならぬ


そう・・・キチョルにも
そんな不遇な時代があったのね
そしてその妹の奇皇后は未だに
私とヨンを嫌っているわよね


ああ 兄を殺されたと
思っているからな


うん・・・


奇皇后はもともと高麗からの
元への貢ぎ物(貢女)だったが
順帝の食事係で見初められたと
聞いておる
元の被害者であったものが
逆に高麗に災いをもたらすとは
何とも皮肉な話だ


そうね
キチョルも妹がそんなに大出世を
しなければ 心を病むことも
なかったのかしら?


どうであろうな
あの頃から 野心家であった
のではないか
人の本質など早々変わらぬ



*******



アンジェの屋敷の庭で
偶然出くわした
ねっとりとした笑顔の
キ・チョルは


チェヨン殿
この キ・チョルのこと
お父様に何卒よしなに
お伝え下され


と 深々と頭を下げた

権力に媚びへつらうことを
良しとしなかった
チェ家の血が騒いだチェヨンは


申し訳ありませぬが
私などが 王宮のことで
何かのお役に立つとは
思えませぬ
ご自分で道を開かれた方が
お早いかと・・・


しっかりとした口調で
はっきりと返答した
横でそのやり取りを見ていた
ムンチフが


キチョル殿 一本取られましたな


と 愉快そうに笑う


チェヨン殿は まことに清廉潔白
お父上と同じでありますな


父をご存知なのですか?


某が率いる赤月隊の
良き理解者で
物心両面から支援して頂いてる


そんなこと 一度も聞いたことが
なかった・・・
父上とこのいかつい 
でも優しい目をしたムンチフが
知り合いだなんて


引き合わせたのは我が父上だがな


アンジェが得意そうに言った


父上とムンチフ
チェヨンは
自分が知らないところで
ふたりが繋がっていることが
なんだか 面白くなかった 

母上が亡くなってから
互いになんでも包み隠さず
話をしてきたはずなのに
ムンチフの話は一度も
父上の口から聞いたことがない
これほどの武人をなぜ紹介しては
くれなかったのか
紹介したら
後を継がずに武人になると
父上は思ったのだろうか
自分が頼りにされていない気がして
チェヨンは少し寂しく感じた


お父上は 
時機を待たれていたのだと
そう思いますぞ


時機とな?


すでに四書五経も会得したとか
まだ十代初めと言うに
その年で歴史書も読みこなし
科挙の要件までも満たしておる
それだけ学問に精通しておれば
わざわざ剣術を会得せずとも
よいではないか


なれど 学問だけではなく
剣術も 
やってみとうございます


そうか 
その気持ちになるのを
お父上の チェ・ウォンジク様は
お待ちだったのではないかと
そう思うてな


そうだ 父上はそう言うお方
あれをやれ これをやれと
言われたことは一度もない
やりたいことをさせてくれて
黙って見守ってくれていた

あれが危ない これはならぬと
小言を言う役目は
いつも叔母上かソンオクで

それにしても
父上の気持ち さらに
自分の不満な気持ちまで
言い当てられてた 
このムンチフという男
なんと懐の深い御仁だろう


黙り込んだチェヨンに
ムンチフが尋ねる


剣術に興味があるのか?
アンジェと手合わせをしたら
そなたもやってみるか?


一瞬でぱっと顔色が輝く
その凛々しい顔が さらに
引き締まり凛々しく見える


よいのですか?


筋の良さそうな
顔つきをしておる
やってみろ


そう笑った・・・



*******



それで赤月隊に入ったの?


そのような性急な
話ではないが
ムンチフ隊長との出会いが
その時であったのは
間違いない


そう
だから
アンジェ将軍 自分が
きっかけでって・・・
思っているのかしら?


さあな
遅かれ早かれ 
父上の知り合いならば
出会っていたはず
アンジェのせいでは
あるまいに

ところでイムジャ


なに?


そろそろ夜も更けた
まだ湯浴みもしておらぬ


うん


話の続きは湯殿でどうだ


・・・・
なにか企んでない?


そのような訳あるまい


チェヨンのこめかみが
ぴくりと動いたことを
ウンスは見逃さなかった


*******



『今日よりも明日もっと』
清廉潔白なあなたを
私は誇りに思っているわ



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