屋敷に戻ると
ヘジャが出迎えてくれた


手に入った?


ウンスがこそりとヘジャの
耳元で聞いた


密やかに頷くと
もう出来ております


そう告げた


よかった・・・


ウンスは満足げな顔をして
チェヨンに続いて奥の間へと
向かった


夕餉の膳は
ウンスが用意させて
ヘジャが腕によりをかけた
魚の料理だった


最近 さっぱりとしたものしか
口に入れないウンスを気遣い
チェヨンも
似たようなものばかり
食している

そんな優しい夫への
せめてもの
ウンスの心配りであった


夕餉も湯浴みも済み
ヘジャが
ではこれで・・・と
家に戻る


そろそろ ヘジャも含めて
住み込みの者を増やさねば
ならぬときであろう

チェヨンは閨の寝台の中で
ウンスのこれからの
生活を思い
考えを巡らせていた


ウンスが薄桃色の
寝衣に着替えて
チェヨンの横にふわりと
滑り込む


柔らかな心地いい肌から
優しい香りがした


お風呂に入ったのに
まだ なんだか寒い


言い訳しながらすり寄る
仕草が かわいくて
つい ぎゅっと抱きしめた


今日は何もなしだからね


先手を打ってウンスが言う


ああ わかってる


少し諦め切れないように
チェヨンが相づちをして
すり寄るウンスに
さらにすり寄った

同じせっけんとやらを
使っているのに
ウンスからは
芳しい香りがする

ウンス自身の香りと混ざり
余計に心を揺さぶるような
香りになるのであろうか?

鼻先を くんくんと
首筋にあてると
チェヨンは妻の匂いを
吸い込んだ


ちょっとぉ くすぐったい
変なことしないでよ
ねえ
それより 私ヨンに
聞きたいことがあるのよ


なんだ ?


首筋から離れられずに
顔を埋めたまま
チェヨンが言った


さっき庭園でね アンジェ将軍と
あったじゃない?


ああ
思い出すようにチェヨンが頷く


あの時ね 将軍が 
ヨンが武士になったのは
自分のせいじゃないか?
みたいなこといってたの
負い目を感じてたとかなんとか
どういうこと?
聞いてもいい?


うーんと逡巡する顔をして


あいつの考えていることは
ちとわからんが
俺が武士を選んだ頃の話か?


ええ
やっぱり ナイショかな?


イムジャに隠すことなど
何もないが・・・
気になるか?


うん 少し・・・
それに随分人気もあった
みたいだし・・・


チェヨンはふっと笑って


イムジャが前に あいどる
とか言ってた新入隊員どころの
騒ぎではなかったぞ


からかうように
ウンスの頬を軽くつまんだ


やっぱ いい
聞くと気になるから
女の子がらみのことは
聞きたくない
でも アンジェ将軍の話は
気になる
ソンオクに聞こうか?
ウネさんに聞く?


落ち着かぬ様子のウンスを
頭から抱えるように
抱きしめると


俺には ウンスだけ
他には何もいらぬ
それはこの先も
変わることはない
ああ 
今は腹の子ももちろん
大切だが・・・


うん わかってる
私もそう・・・
あなた以外 あなたとみぃ以外
何もいらないわ


それでも聞きたいのか?
少年の頃の話・・・
イムジャがそんなに
気にするようなことは
何もないと思うが・・・


でも 聞いておきたい
そんな気がして


そうか 
と チェヨンは優しく
ウンスに言うと

静かに語り始めた



*******


もう記憶にないくらいの
昔の話だ・・・・



チェヨンがが12歳の時に 
パク家に生まれた娘と
許嫁の約定を交わした

相手はまだ乳飲み子
まったく実感の湧かぬ
家同士の取り決めであった


10代のチェヨンは
高麗随一の美少年との
呼び声が高かった

端正な顔立ち 
引き締まったからだ
どこからどう見ても美丈夫

一目見ようと屋敷の周りは
いつも女人で溢れていた

家同士の許嫁がいることは
周知の事実であったが
もし 見初められたなら
側室でもかまわぬという
女人も後を断たなかった

そんな世間の喧噪には
全く興味を示さずに
アンジェやウネや
気心しれた書堂仲間と
学問を研鑽したり
釣りや 狩りをしたりと
平穏に暮らす毎日

まだ 父親も存命であった

そんなある日

アンジェが今日は屋敷に
珍しい客人が来る
と そう言った
お前も会ってみないかと
誘われた

何の気なしの 暇つぶし
その程度の考えで
チェヨンはアンジェの屋敷に
出向いた



*******



で 誰に会ったの?


ウンスがチェヨンの胸に
頬をつけながら
少し甘えたような声色で
尋ねた


さあて 誰だと思う?


う~ん
ウンスは考えた・・・


話はまた明日にしよう
灯りを消すぞ
まだ起きているなら
この先の保証は出来ぬが


衣に手をかける振りをして
涼しい顔でからかうように
チェヨンが言う


寝る 寝ます
おやすみなさい


慌ててウンスは目を閉じた


チェヨンの腕にいだかれて
今宵もよい夢が見られそう・・・



*******


『今日よりも明日もっと』
恋しいあなたが
幸せならば
それでいい・・・




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