兵舎の二階の私室から
チェヨンは
広場の隅の山桜の木を
ふたたび 眺めていた
昼からの暖かさで開花が
いっそう進んだ気がする


先ほどまでの昼餉時
皆との和やかなひととき
自分にもたれかかる
妻ウンスの感触を思い出す


王宮の庭園で
急に交わした口づけ


小さいあなたも
今のあなたも
たまらなく いとしいわ


ウンスの声が耳に残る


ああ 俺もだ
イムジャのすべてが
いとおしくてたまらない


そう言い返すと
離れた唇をもう一度
押し当てて
どちらからともなく
絡めた舌
柔らかな甘い感触
優しい吐息


離せなくなる


唇の上で囁くと


私もよ・・・と
答える笑顔


だから今宵は
早く帰って来てね


首にしがみついたその腕に
きゅっと力をこめてから
ウンスが甘く囁いた


ああ 


柔らかな髪をなでると
ウンスは
喉を鳴らす子猫のように


あいしてる


と 呟いた・・・


思い出すと自然と頬が緩む
口元に笑みがこぼれた


兵舎の隅
王宮の庭園

そして
屋敷の庭の片隅にも
ひっそりと咲いている
山桜・・・


今は妻ウンスの部屋
昔 母が寝ていた
その部屋からも
美しい桜の花がよく見えた


母が亡くなってからは
よくその山桜の木に登っては
ソンオクに叱られた


チェ家の次期当主たる者
木登りなど
怪我でもなされたら
なんといたします
そのようなことは市井の
子供のする遊び


やかましいが
嫌いではなかったその小言


それでも一人になりたい時は
こっそり 木の上まで登り 
もう主のいない
母の部屋を見つめた幼い頃

木の上までは
誰も追いかけては来ないから
ひっそりと泣くにはちょうど
よい場所だったと思い出す


山桜・・・
かすかな胸の痛みが
恋しい妻によって
優しい幸せな思い出に
塗り替えられていく

山桜・・・
妻となった愛しき人の
腹の中には俺の子がいる

そう思うだけで
春の陽射しのような
ふんわりとした暖かい
喜びに包まれる・・・


母上 俺も大人になりました


チェヨンは空に向かって
呼びかけた・・・



*******



『今日よりも明日もっと』
山桜 春爛漫な
木の下で
幸せな時が過ぎていく




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