春風のいたずらで
ぴゅーんと 風が
昼餉の膳を囲んでいた
皆の間を通り抜け

まだ三分咲きの山桜の木を
揺らした・・・

ひらひらと
一枚の花弁が空を漂って
ウンスの髪にふわりと舞い降りた

チェヨンはその花びらを
ゆびでそっとつまむと
大事そうに自分の
手のひらに乗せた


なあに?


ウンスの甘えるような声が
チェヨンの耳に届く

ウンスがチェヨンに尋ねると


ほら 髪に花びらが・・・


手のひらの花びらを
そっと
ウンスの目の前に差し出した


あら・・・
咲き始めたばかりなのに
もう舞い落ちるなんて


そう言って
ウンスはそれを受け取ると
そばにあった紙に包み
大切そうに懐に仕舞った


ふいに
チェヨンがウンスの頭の後を
手のひらで
いとおしむように撫でながら


寒くはないか?


そう聞いた


あたたかくて優しい
チェヨンの大きな手
その手が髪に触れると
心に触れられたみたいで
きゅんとなる・・・


大丈夫よ


ウンスは微笑んだが
チェヨンはウンスの方に
さらにからだを寄せると
自分の胸に引き寄せた


もう みんなが見てるわ


妊婦がからだを冷やして
いかがする
本当は膝の上に
乗せたいくらいだ


チェヨンがウンスに
小声でぽそっと伝えた


春の陽射しを浴びて
ウンスの柔らかな髪の毛が
きらきらと輝いていた



*******



ソンオクが
一口 お茶をすすって
思い出すように
また話始めた


今は奥様がお使いのお部屋
あそこに大奥様のお部屋が
ございました


あら よくご存知で・・・


んっんっ 
と ヘジャが咳払いをした


ソンオクがかまわず


はい ヘジャから
聞いております・・・


そう まあ聞かれて
困るような話でもないし
でも
そんな大切な思い出の場所
私が衣装部屋みたく
使ってよかったのかしら


ウンスが小首をかしげて
尋ねた


大切な思い出の場所だから
奥様に使って頂きたかった
きっとそうだと思います


ソンオクがゆっくりと
言った・・・


あの部屋から
中庭が見えますよね


ええ


坊ちゃまはよく
奥女中たちと中庭で
よちよちと 走り回り
その姿を大奥様が窓辺から
お優しい目で
見つめておいででした

大奥様は物静かな
とても澄んだ目をした
お美しいお方で
坊ちゃまは大奥様似かも
知れませんね


ソンオクは
思い出したように微笑んだ


そう言えば 坊ちゃまは
お庭の小石を
お集めになるのが好きで 
きれいな小石を
見つけては大事そうに 
大奥様にお届けしていました



*******



ははしゃま これ・・・


小さな手のひらに
ちいさな白い石ころがひとつ

臥せっていたヨンの母は
それを
うれしそうに受取ると


今日はまた 一段と
美しい玉が見つかりましたね


優しくヨンの頭を撫でた


ヨンのおかげで母の宝石が
また増えました
いつかヨンの嫁御に
この玉は
渡さねばなりませぬな


優しく微笑むと
ヨンの母は 螺鈿細工の
美しい箱に ヨンの小石を
大切にしまった・・・


ははしゃま・・・


ヨンが母の胸に
すり寄る・・・


ヨンは甘えん坊だこと


母は幸せそうに息子を
見つめた


ははしゃま・・・
よい・・・かおり・・・


遊び疲れて うとうとと
母の胸にいだかれて
いつしかヨンは眠りについた



*******



大奥様が
お亡くなりになられたのは
それから
すぐのことでございます


大旦那様の膝の上に
ちょこんと座られたまま
大奥様に


ははしゃまは
なぜ おきぬ・・・
そう言っておいででした

そのあどけない物言いが
屋敷の者の悲しみを
さらに深めたかのようで
ございました


そう・・・


抱きしめてあげたい
幼い日のあなたを
慈しんであげたい
あなたの心を


ウンスは王宮にいる
夫を思いながら
頬に伝う涙をそっと
指でおさえた



*******



山桜の木の下で
愛する夫の腕にいだかれて
大切に守られている

みぃ あなたは幸せよ
こんなにすてきな父上がいて

一緒にヨンを幸せにして
あげようね・・・


ウンスはお腹の中の
我が子にこっそりと
囁いた・・・


*******



『今日よりも明日もっと』
甘い思い出 切ない思い出
どんな思い出も
あなたの一部・・・


にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村