坊ちゃまは
たいそうな難産で
それはそれは
大奥様が大変な思いをなさり
この世にやっと産声を
おあげになられました

蚊の鳴くような
弱々しいお声だったと
覚えております

されど その割には
健やかにお育ちになりました
乳母の乳の出もよかったので
ございましょう

ふたつの頃には
ぷくぷく まるまるとした
思わず
吸い付きたくなるような
頬の
それはかわいらしい幼子に
ご成長あそばしました

屋敷のもの皆に
かわいがられ
特に 時々お宿下がりを
されてくるチェ尚宮様の
可愛がりようといったら
・・・


やっぱりね・・・
そうだと思ったわ


ウンスはふふんと納得した


しかしながら と
ソンオクは声を
ひそめるように言った


大奥様は難産の後
産後の肥立ちも悪く
その後は 寝たり起きたりの
日々が続き・・・


ソンオクは一呼吸おいて
辛い思い出を吐き出すような
そんな表情をしてみせた


そう 
ヨンも寂しい
思いをしたでしょうね


さようでございます
なのに むごいことを
いたしました


??


幼少の折
坊ちゃまはとにかく
甘ったれで
大奥様にべったりと
いつも離れずにおりました


ふふっ
わかる気がする・・・


ウンスは
ウンスにしか見せない
チェヨンを思い出して
微笑んだ


チェ尚宮様と私は
病床の大奥様を気遣い
またチェ家の跡取りとして
たくましく育って欲しいと
そう願い
大奥様に泣いてすがる
手をふりほどき
引き離す日々でございました


そう 可哀想に・・・


はい 
しかしながら坊ちゃまは
気がつくと また
大奥様と同じ床に潜り込み
母上様の胸を握りしめるように
その丸い小さなお手で
しっかりとにぎって
よく寝むられておられました

あのように大奥様が
早くに逝かれるのであれば
もっともっと
甘えさせてあげても
よかったと・・・悔やまれて
なりませぬ

坊ちゃまの大奥様を呼ぶ声が
今も耳に残っております


そう・・・でも
大丈夫よ ヨンはそんなに
弱い子じゃないわ
それに 優しいの人なの
人の心をよくわかっている
ソンオクの気持ちも
叔母様の気持ちも
きっとわかっているわ
それにね
もし甘え足りなかったって
いうなら
今から いくらだって
私が甘えさせるわよ


ウンスはソンオクに微笑んだ


ソンオクは目頭を拭って
ウンスを見つめ
やはり坊ちゃまは善き奥方に
巡り逢えたとそう思った


ウンスにはチェヨンが
母を呼ぶ声が聞こえた気がした


ははしゃま ははしゃま・・・


片言の とてとてと歩く
チェヨンが思い浮かび
思わず笑みがこぼれる


名家チェ家の次の当主として
厳しく育てなくては
ならなかったのだろう

しかしその一方で
皆の愛情に包まれて
幼少時代を送ったのだと
ウンスは少し安心した


そして ソンオクは
その厳しそうな表情を
柔和な笑顔にかえると
また 語り始めた



*******



兵舎の山桜の木の下で
チェヨンとウンスは
チュンソクやトクマン
テマンなどウダルチの
周りの仲間も巻き込んで
昼餉を食していた
ヨンファとポムもそれを
囲んだ

みな 互いに愉快そうに
笑っている・・・
時折 通り過ぎる
春風が頬に心地よい


と 突然
チェヨンにもたれるように
座っていたウンスが
まわりに聞こえないように
チェヨンの
耳たぶをかすめるように
唇を寄せてそっと囁いた


ねえ お母様の
おっぱいを
握りしめて
寝ていたんですってね


口の中に
飯を放り込んだばかりの
チェヨンはごほごほと
むせ返った


たわけたことを
そのような小さき頃のこと
覚えているわけなかろう


ムキになってチェヨンが
答えた


あらあら 慌てちゃって
だって ソンオクから
聞いたもの・・・
ソンオク気にしていたわ
無理矢理引き離して
可哀想なことをしたって


そうか・・・あの
ばあさんそんなことを
気にしておったか・・・


昔を懐かしむような
顔をしてチェヨンが呟いた

ウンスがまた耳元に
唇を寄せて
わざと触れるかのように
チェヨンに聞いた


ところで
まさか 私のことお母様と
間違ってないわよね
だからいつも・・・
離さないとか


耳元にかかるウンスの
吐息が熱い


イムジャ


チェヨンが制するように
ウンスの唇を
きゅっと優しくつまむと


そのような訳あるか
イムジャだから離さぬのだ
それ以上いらぬことを申すなら
この口 食うぞ


ウンスの耳元に反撃した


もう ヨンのばか・・・
ウンスは照れながら
頬を紅く染めた


周りのもの達は
見て見ぬ振り
聞いて聞かぬ振り
何事もなかったように
昼餉を続けている・・・


よかった
チェヨンが笑ってる・・・


ウンスは愛する夫を
優しく見つめた



*******


『今日よりも明日もっと』
あなたを幸せにしてあげたくて


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