ヘジャが厨房からお茶を
運んで来た
ヘジャが扉を開けると
暖かい春の風が
ふわりと舞い込み
こうばしい香りが
奥の間に広がった


いい香りね


ウンスがうれしそうな顔をする


あまり食欲がないかと思い
また瓜をお持ちしました


ヘジャがウンスの前に
そっと差し出した


ありがとう


出された瓜をかりかり食べながら
ウンスはソンオクに尋ねた


私 旦那様の小さな頃のこと
考えてみたらよく知らないの
ほら 出会った頃は
心を閉ざしている風だったし
まあ 
無理にこじ開けちゃったけど


くすりとウンスが笑った


坊ちゃまの凍った心を
溶かして頂けてほんとうに
よろしゅうございました


ソンオクがまじめな顔つきで
しみじみ 答えた


ふふっ だからね
いろいろ聞きたいのよ
旦那様の小さい頃の話


きらきらと目を輝かせて
ソンオクを見る


ああ この顔をされたら
大抵のものは断ることが
できまいて・・・


ヘジャはひっそり思った


逡巡してからソンオクが
口を開き


ようございます
私でわかることであれば
なんなりと・・・
なにせ私は
坊ちゃまがお生まれになる
ずっと以前の 
先先代様よりチェ家に
ご奉公させていただいて
おりましたから


胸を張った


そうだったわね


はい ですから 勿論 
坊ちゃまが
お生まれになったときも
幼少時代も少年時代も
よく存じております
さて
なにからお話ししてよいものか


ソンオクは暫し考える顔つきを
してから


では まだ奥様
いえ 
大奥様がご存命だった頃の
思い出話をいたしましょうか


ええ 楽しみだわ


ウンスはわくわくした面持ちで
ソンオクの方に身を乗り出した



当時 チェ家は高麗でも
指折りの名家でございました
もちろん 今もそれは
変わることはございません


そう・・・聞いてはいたけど
やっぱり
そんなに誉れ高いお家柄なのね


はい さようで
また大旦那様は文臣として
政の重鎮であらせられ
お屋敷にもたくさんの使用人が
出入りしておりました


ウンスは
にぎやかな屋敷を想像してみる
下男 下女 
多くの者がチェ家に寄り添い
支えてくれていた頃を・・・


私でよかったのかしら?
後ろ盾になる力もないし
この家の嫁としては
だめだめよね・・・


ふと漏らしたウンスの呟きに
ソンオクが渋い顔をした


奥様 
そのようにお考えになる
必要はございません
そもそも 
奥様と契りを交わさねば
このチェ家は
坊ちゃまの代で途絶える
ところだったのですから・・・


そうかしら・・・?


はい
そのような杞憂
必要ございません
心配ご無用にございます


ありがとう
なんだか胸がすっとしたわ


差し出がましいことを
申し訳ございません・・・
それに
坊ちゃまが奥様のことを
愛でられるお気持ち
ソンオクにはよくわかります


そ そお?


はい・・・では話を戻して
坊ちゃまが
まだ小さき折のお話を
いたしましょう

あれは まだ
三歳になるか
ならぬかの頃の
ことでございます


ふと
ウンスは自分の横を
きゃっきゃっと
はしゃぎながら
まるまるとした 
元気な幼子が
走り去る 幻を見た

青い衣を着て
短く髪を結っている
つぶらな鳶色の瞳
ふっくらとした紅い頬
きゅっとしまった口元

思わず抱きしめて
頬ずりしたくなるような
かわいい幼子

今のは ヨンの幻かしら
それともみぃの幻かしら


どちらにしても
幸せな幻だとウンスは
思った



*******


『今日よりも明日もっと』
  ちびヨン見参!



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