パク・インギュが去ったあとの
典医寺のウンスの自室

なかなか離せない唇を
やっと離して
ウンスを抱えたまま
寝台に腰掛けてから
チェヨンは言った


イムジャのことになると
本当に俺は情けないくらい
餓鬼になる


そうね
ちょっと考えれば分かることも
すぐムキになるわよね


ウンスが言った


呆れたか?


ええ   いつも呆れてるわ
見境のない夫に
そして
そんな夫が見境ないくらい
大好きな自分にも
呆れてるわ


ふふっとウンスが笑う


そうか


ウンスはチェヨンの腰に
手を回して
抱きつくと   そっと
チェヨンの胸にしな垂れかかる

ふたりは
しばらく言葉も交わさずに
ただ   じっと寄り添って
互いの息遣いを感じていた


外から昼休みに和む
医員や薬員の笑い声が聞こえる
そろそろ昼餉の時間も終わって
しまいそう


このまま
どうにかしてしまいそうになる
そんな気持ちを隠して
チェヨンは


さて    飯にするか
みぃも腹が減っただろう


そう言ってウンスの
お腹を優しくさすった


私もお腹が空いたわ


ウンスが微笑むと
チェヨンはもう一度だけ
唇を
かさねて
それからウンスをとんと
床に立たせると

扉を開けて
少し離れたところにいたポムに


昼飯を頼むと伝えてくれぬか


そう声をかけた


はい   すぐに
ポムが答える


しばらくすると
スヨンがポムとともに
膳を運んできた


ここの暮らしに
少しは慣れたか


チェヨンはスヨンに気づいて
声をかけた


はい
消え入るような声で
スヨンが答え
ウンスが膳を受け取ると
逃げるように去ろうとする


スヨンさん
待って
私もいろいろ至らないけど
あなたはひとりじゃない
典医寺のみんなが
そばにいること忘れないでね


ウンスは思いを込めて
スヨンに告げた

一瞬   顔色を変えたスヨンだか
ウンスとチェヨンの顔を
代わる代わる見つめた

ウンスは優しく笑っていた
チェヨンが頷く


ありがとうございます


スヨンも少しだけ微笑むと
ふたりにお辞儀をして
部屋をあとにした


良かった
初めて笑ってくれた気がする


ウンスの言葉には
何も言わずに
チェヨンはウンスの肩に
そっと手を置いた

ウンスはチェヨンの
手のぬくもりを感じながら


チェヨンが言った通り
ただそばにいて
見守っていよう
いつかスヨンが
心から笑える日が
くるように


と   そう静かに思った


ポムがウンスに声をかける


医仙様
早く召し上がらねば
冷めてしまいます
それに   
もうすぐ診療が始まりますよ


気を取り直してウンスが
答える


あら   そうね
ヨン   早く食べましょう
ふふっ
お昼も一緒に過ごせて
幸せだわ
たまには    ヨンの悋気も
役に立つわね


イムジャ!


ポムは笑い
チェヨンは照れくさそうに
横を向いた



残雪は暖かな陽射しで
ゆっくりととけていく

季節はめぐり
ウンスが
高麗で過ごす初めての
春がくる

新しい未来(ミレ)とともに
幸せを運んでやってくる

典医寺に   梅のよい香りが
いっぱいに広がっていた



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『今日よりも明日もっと』
さまざまな   想いをいだいて
春が巡り来る