典医寺のウンスの自室に
現れたのは
年の頃はまだ20代前半
眉目秀麗な顔立ちの
意志の強そうな若者であった


ご挨拶と先だってのお詫びに
参りました
某 朴仁桂(パクインギュ)と
申します


よく通るはっきりとした声が
ウンスの耳に届いた


あら いいのよ
あなたと恋仲だとかいう噂
どうせあんな戯れ言
誰も信じないし
大護軍もそんなわけないって
ちゃんと私を信じてくれたから


ウンスが落ち着き払って
そう告げると


その若者はくくっと笑ってから


思った通りのお方だ


そう言った


どう思われたのか
わからないけど
この高麗でふたりで
生きていこうと決めた時から
彼と一生を共にするって
ことに迷いはないわ
彼の力になるためなら
なんだってする
それに今はこの子もいるし


そう言ってウンスは
幸せそうにお腹をさすった


そうですか・・・
それを伺い安心しました
実は我がパク家とチェ家は
祖父の代より親交がありまして
大護軍は
覚えていないようでしたが
某が幼き頃 互いの屋敷を
行ったり来たりしていたものです


あら そうだったの
ポムは何も言ってなかったわよ


そのようなこと
初めて聞き及びます


ポムが横から口を挟んだ


それはそうであろう
そなたはまだ乳飲み子であったし
そなたがもの心ついた頃には
大護軍も家を出られて
赤月隊として生きる道を
お選びになった

もしあのまま
文臣になられていても
十分な出世も約束され
また 政においても
その力を発揮できたでしょうに
残念でなりませぬ


そうかしら・・・?
出世にも政にも
興味はなさそうだけど?
それより
あなたも相当優秀と伺ったけど
科挙最年少記録なんでしょう?


いえいえ もし大護軍が
お受けになっていたら
間違いなく
大護軍がそうなっていたはず


さあ どうかしら
そもそも面倒くさがり屋だから
科挙なんて受けないんじゃない?


そうかも知れませぬが・・・


そういって笑った


で 結局
私の値踏みに来たのかしら?
チェヨンの妻として
どうなのかって・・・
天人とか言って
本当は大護軍をたぶらかす
妖魔かも知れないって・・・?


まあ 当らずとも遠からずです
何者にも心乱さぬ大護軍が
医仙様のこととなると
人が変わられる
これは武人としては致命傷かと
そう心配しまして
一度医仙様と
お話をしてみたかったのです
ご無礼の段ご容赦を


そう で 
あなたはどう思ったの?


はい さすがに
大護軍が好いたお方だと・・・
肝が据わっておいでだ


あたりまえです 兄上
兄上 失礼にもほどがあります
医仙様はとてもすばらしいお方
大護軍様とも仲睦まじくて・・・
そのような方を試すようなこと
ポムは許せません
だから会わせたくなかったのに


ポムが息巻いて言った
ウンスはそんなポムに
なだめるように微笑んでから
まっすぐインギュの目を見て
尋ねた


パク・インギュさん


はい


あなたもチェヨンの力になって
くれる人なのね


はい
幼き頃より大護軍のように
あのように秀でた人物になりたいと
以前より 兄ならよいのにと
慕っておりました
王宮でご一緒できること誇りに
思っております


そうなの?
うれしいわ・・・


ウンスが安心したように
微笑んだ時


バーンと
突然
けたたましい音がして
扉が開け放たれた


目の前に チェヨンがいる


イムジャ!
イムジャは
何を言っておるのだ!





部屋の中にいたもの達は
一斉にきょとんとした顔で
チェヨンを見つめた


なにって・・・?
ヨンこそどうしたの?
びっくりするじゃない
何を怒っているのよ?
ねえ みぃ 
みぃも驚いたわよね


そう言ってお腹をさすった


はた とした顔をして
チェヨンがウンスに駆け寄り


声を荒げてすまぬ
大事ないか


ええ 大丈夫だけど?


よかった とチェヨンは
安堵の表情を見せた


インギュが
堪え切れないように
笑い出し


大護軍が医仙様のことを
どれだけ大切にされているか
よくわかりました
某にまで悋気とは・・・


そう言ってまた笑った


な なんの話だ?


チェヨンがきまり悪そうに
呟いた


え? どこが
焼きもち焼く話だったの??
インギュさんが小さい頃から
ヨンに憧れているって話よ


は?
俺はてっきりこの男が
イムジャに・・・


もう ほんとに
仕方がない人ね
インギュさんに失礼よ
それに
朝 お腹に子も授かり
これでもう悋気の心配もない
って自分で言ってたじゃない
どうせ私のことなどもう誰も
見向きもしないって
安心していたんでしょう
だから焦ったのでしょう


ウンスはそう言って拗ねた


インギュが言った


大護軍も医仙様にかかると
幼子のようですね
医仙様・・・ 
医仙様は
お子がいようといまいと
十二分にお美しい
大護軍がご心配なさるのも
わかります
某も医仙様の人となりを知って
本気で
懸想したくなりましたゆえ


いつでもどうぞ
若い殿方に
懸想してもらえるなんて
うれしいわ


イムジャ!


うふふ 戯れ言よ
そうやって
すぐムキになるんだから


ウンスは楽しそうに
笑って言った


ポムは医仙様の
笑い声はたいそう心地よく
耳に響くと
そう思った・・・



*******



ふたりきりになった典医寺の
ウンスの部屋で

ウンスは拗ねた振りをして
チェヨンに言った


信じてるって言ってたくせに
全然信用してないじゃない


いや イムジャのことは
信じておるが・・・
だが 相手の男は信用できぬ


なによ それ・・・


口を尖らせてウンスが言う


だから あの者も
言っておったであろう
イムジャは美しいのだ
誰の目にも
触れさせたくないのに
そうもいかぬ


ばかね・・・私は
あなたの妻でしょう
高麗中誰だって知ってるわ
だから
私に懸想する人はいないわよ
鬼の大護軍を敵にする人なんて
この高麗にはいないもの


そのようなことわからぬ


万一よ
万一懸想するような人が
いたとしても
あなたが追い払うでしょう?


無論


じゃあ 心配ないじゃない


ウンスはチェヨンの胸に
しがみつき


ここが一番安心する
ここ以外安心できる場所
知らないわ
大好きよ 私の守り人さん


優しく言ってチェヨンの
頬に口づけた


やはり俺はイムジャに対して
見境がない
だが仕方がないではないか
自分でも呆れるくらい
妻に惚れているのだから


胸の中でそう思うと
頬では満足できなくて
チェヨンはウンスと
唇をかさねた

チェヨンは
なかなか離すことが
できなくて
ウンスが疲れぬようにと
抱き上げると
また顔を近づけた・・・


昼餉の時間が過ぎている
ふたりはなかなか部屋から
出ては来なかった



*******



『今日よりも明日もっと』
ひとりよりも ふたりが
もっといい・・・



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