一旦 兵舎に戻り
用事を済ませて来た
チェヨンが
夕刻 典医寺に迎えに来た


顔を見ると 安心した
なんだか離れたくなくて
典医寺の中庭で
子供のように
人目も憚らず抱きついた

昨日はここで
子が出来たと
幸せの報告をした
その時の梅の香り
チェヨンの喜ぶ顔
この先の未来が光り輝いていた

それなのに・・・

チェヨンはウンスの気持ちを
推し量ってか
ウンスを優しく受け止めて

帰ろう 屋敷へ

それだけ 言った・・・


早朝からの雪はすっかり消え
やわらかな西日が
ふたりを包んでいた



*******



輿の中でも
屋敷の奥の部屋についてからも
チェヨンの膝の上から
離れずにいた

なんだかとても甘えたくて
なんだかとても恋しくて・・・


いつもはイムジャが
体面 体面と言うくせに


そう チェヨンに笑われた


いいの
妊婦は気持ちが不安定なのよ
今日はそばから離れたくないの


ウンスが言い返すと
真面目な顔でチェヨンが言った


明日 戦が始まる訳ではない
それに 俺が出兵する前に
片がつくやも知れぬ
いまから そう案ずるな


チェヨンは ウンスの腹を
さすりながら


そなたの母上は心配性だな
大丈夫だとそなたから
言うてやれ


と 笑った


もう どっちが心配性よ


そう言いながらウンスは
チェヨンの腕の中で
チェヨンの唇を探した

温かく優しいチェヨンの
口づけが
ウンスの心を
解きほぐしていく気がした


近々 戦が始まる・・・

その一言を聞いたとき
冷や水を浴びせられた気がした

天界から高麗に来たことを
忘れるくらい
幸せすぎる自分への
運命の警告にも思えた

まだ始まってもない戦に
こんなに 心が乱れている
もしヨンに何かあったら
そう思うだけで胸が痛く
息が出来なかった・・・

そう考えたとき
スヨンのことが頭をよぎった

戦で夫を亡くすということ
その現実を受け止めている
スヨンさんは
どれだけの苦しみを
抱えて生きているのだろう

何か自分にできないだろうか・・・
でも 何も思い浮かばなかった


唇を離したチェヨンが
どうした?という目で
ウンスを見ている


戦で旦那様を亡くした
スヨンさんのことを思い出して


ああ
あのチェ侍医を刺した女人か・・・


ええ 
戦の話を聞いていたら
思い出して胸が痛くなった


そうか・・・


私に何か出来ないかしら?


周りの者にも優しいのは
イムジャのよいところだが


言葉を選びながらチェヨンが
言った


今はまだ その機にあらず
そっとしておいてやる方が
よかろう


そうかしら?


愛別離苦・・・
あの女人自身で
乗り越えねばならん
まわりは何もしてやれん


・・・


イムジャは
ただ 何もせずに
そばにいて 
ただ 
そっと見守っていれば
それでよい
イムジャが俺にしてくれた
ように・・・


ウンスはチェヨンの
胸の辺りをぎゅっと掴んだ


私がヨンにしたように?


ああ
早く雪が溶けるとよいな


うん・・・


ウンスはチェヨンの胸に
顔を寄せ目を閉じた・・・


しばらく そのままでいると


ヘジャの咳払いが聞こえ
部屋の外から声がした


夕餉の支度が整いました


わかったわ
いま 行く


ウンスが元気に返事をした

チェヨンが腕の中のウンスの
鼻をきゅっとつまんで


やっと いつものイムジャに
もどったか


優しく笑った
慈しむような笑顔だった



*******



『今日よりも明日もっと』
何もしなくても
ただじっとそばにいる
それで救われるときもある


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