屋敷の門の前で
ふたりを見送ったヘジャは
くすりと笑った


本当に変わったご夫婦だ
高麗で一番
仲睦まじいご夫婦に違いない

いくつかのお屋敷の
奉公経験からも
稀有なおふたりには違いない
まあ もともと奥様が天人と
言う時点で 既に他の方とは
異なっているのかもしれない

普通 ご夫婦は閨は別々で
旦那様が正妻様のところに
お渡りになることも
そう多くはないのが
この高麗の高官の常識

されど ここは違う

奥様から寝所には入らないよう
申し渡されたとき
なぜだかわからなかったが
毎夜 ご一緒にお過ごしに
なるとは・・・
しかも誰に憚ることなく
互いの想いを伝えあう
今朝のおふたりを思い出すと
こちらが冷や汗をかく・・・

天人とは まことに
羨ましきかぎり・・・


ヘジャはそう思いながら
それでも この家の
女主人をひどく敬愛していた

とにかく 奥様がいるだけで
花が咲いたように
ぱっと明るくなる
「一緒にお茶しましょう」と
固辞しても固辞しても誘われ
楽しいお話もたくさん聞かせて
くださる

そして旦那様を
たいそうお慕いしている
お姿がほんとうに微笑ましい

その奥様の
ご懐妊は飛び上がるほど
うれしかった・・・
チェ家に春がやって来た

ヘジャはすっかり心奪われた
奥様のことを考えて
幸せな心持ちになりながら
輿が遠ざかるのと
見送った・・・



*******



王宮にそろそろ到着
という段になり
膝の上から降りようとした
ウンスを
チェヨンは
なかなか離さなかった


もう 恥ずかしいわ


そう言うウンスに
もう少しだけ・・・と
言ってその腕に抱きしめ
腹をさすりながら言った


よいか 無理はするな
何かあればすぐに知らせを


心配性な父上ね
あなたは強いわよね
ケンチャナ


ウンスはお腹の子に向かって
そう言うと
チェヨンの頬に口づけて
ありがとう と
呟いた・・・



武閣氏のふたりが出迎えて
典医寺まで歩いていく
チェヨンは朝の軍議の時間が
迫っていて
典医寺まで行けぬことを
ひどく残念がっていた


ポムが 真面目な顔をして


大丈夫でございます 
大護軍様
ポムがしっかり
お護りいたしますゆえ


と 言ったので

そなたは何かと問題を
引き起こす
張本人ではないか

そう思ったチェヨンだが
言わずにいると


頼りにしてるわよ


ウンスがポムに微笑んだ
ポムは嬉々として舞い上がり
頬が紅潮した様は
ますます幼子のように
見えた・・・



チェヨンは軽くため息をつき
ウンスの髪を惜しむように
撫でながら
では 行ってくる と
告げて
テマンとともに
宣仁殿の方角へ歩いていった


いってらっしゃい大護軍
早く迎えに来てね


後からウンスが声をかけると
振り返ることなく
チェヨンが手を振った


ああ
なんだか気分のいい朝だわ
さあ 今日も頑張ろう


大きく伸びをしてから
ウンスが呟いた・・・



*******



『今日よりも明日もっと』
気がつくと
いろんな人の支えのなかで
生きている・・・



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