宣仁殿へ行く途中の
回廊で
禁軍の将軍 アンジェと
行き交った


飲み比べ以来の再会


ああ と互いに目で合図して
通り過ぎようと
思っていたら
アンジェに呼び止められた


何用だ
お前とはもう賭けはせぬぞ


ああ あの時は酷い目にあった
おかげで 二日酔いならぬ
三日酔いだったぞ
部下にも呆れられ
嫁にも愛想をつかされ
散々だったゆえ
お前との 飲み比べなど
こっちから願い下げだわ


そう笑った


して 何か用か


アンジェは言葉を選ぶように
チェヨンに 尋ねた


お前の耳に届いておるか?
医仙殿の噂
まったく注目の絶えない
ふたりだな
ここまで来ると気の毒になる


それはどのような噂か
医仙が若造にどうのという
そう言う話か?


いやいや
俺が聞いたのは
若造が医仙殿に言いよって
医仙殿が悩んでおると


はあ?
いったい どこでどうなると
そのような たわけた話が
出てくるのだろうか


さあな
でも 何にしても
皆の注目を集める女人だ
あの美貌 そして天医
話題に事欠かないのも
仕方あるまい
お前も気苦労が絶えぬな


そう言いたいだけ言って
立ち去ろうとした


待て
お前 その噂相手の若造が
誰なのか 知っておるか


知ってるも何も
お前は聞いてないのか


やれやれと言った顔をした


医仙殿のお付きの武閣氏の
兄上だ


??


だから 御史大夫(オサデブ)
パク殿のご子息だ


はあ?
いったい どうなっているのか
さっぱりわからん


頭が痛くなるチェヨンであった



*******



とにかくイムジャに
どういうことか確かめねば
そう思ったが
宣仁殿で朝議がある
抜けることは出来ぬ

歯がゆい気持ちでじりじりと
時を待つことにした


朝議には パク殿もいた
軽く会釈すると向こうも返礼した


いったいパク家の兄妹は
どうしてイムジャに関わるのか
あの武閣氏 やはり変えてもらった
ほうがよいのではないか


胸の内でそう思う
自分は 政にも 文官にも 
もちろん 他の女人にも
全く興味がない

ただ 自分に与えられた任務を
滞ることなく勤め上げ
イムジャを守るために
力になってくれた
王様の役に立ちたいだけだ
そしてイムジャがこの高麗で
我が妻として また
医仙として暮らしていくことを
支えたいだけだ


心がざわつくのはいつものこと
イムジャが絡むと冷静では
いられないのもいつものこと
そう思い気を鎮めようとした
だが 
なかなか上手く行かなかった


いつもより長く感じた朝議が
やっと終わり
すぐにでも典医寺に向かいたい
と思っていたのに
こともあろうか
パク殿に 呼び止められた


大護軍殿
娘が奥方に世話になっておる
ようで・・・


いえ 
それはこちらでございます
医仙も心強く思っているゆえ


そう言って足早に
過ぎようとすると

これへ と若者を手招きした


はい 父上


ん? ご子息か


ああ 愚息ではあるが
以後お見知り置きを


こやつが噂の現況か?
チェヨンはまじまじと
その若者を見た

年の頃は二十二、三
利発そうな顔立ちだ

そう言えばアンジェが
科挙最年少合格
と言っていた

まっすぐ見つめる瞳は
澄んでいた
すっきりとした目元
きりっと締まった口元
すっと通った鼻筋

美男子なのは間違いない

イムジャは前にも
新入隊員のやつを
いい顔だと褒めていた
そやつに似てなくもない
イムジャはこういう顔を
好いておるのか?


礼だけして
行き過ぎようとしたら


大護軍殿
大護軍殿の弱点は奥方様だと
皆 噂しております
奥方様のことになると
人が変わると・・・
武官がそうもたやすく
己が心を人に読まれても
よいものでしょうか


そう切り出された


なにを たわけたことを


どうも某と奥方様が恋仲と
噂になっておるとか
どのように思われますか
大護軍殿


そのような埒もないことを・・
我が妻に限り
そのようなことはない


さあ 人の心は
わかりませぬぞ


挑発するかのようないいように


そなた
イムジャに懸想しておるのか


そう聞いた


さて?
以前 お茶会でお見かけして以来
美しい女人だと
かねがね思っておりました
深緑の衣がよう似合っておいでで
どこぞの奥方様かと思っていれば
大護軍殿の奥方様と・・・

天よりいらしたお方とか
妹のポムも医仙様にすっかり
入れあげております


そうか・・・
我が妻は確かに天人ではあるが
今は高麗の武人チェヨンの妻
おかしな言い方はしないで
いただきたい


それは失礼を・・・
ちと 言葉が過ぎました


言うだけ言うと
頭をさげて若者は
すすっと
チェヨンのもとを離れた


いったい なんなのだ
あの者 何が言いたいのか
それより
なにより今はイムジャに
会わねば
会いとうてならん

その頬に触れ
そのからだを腕に抱き
その声を耳元で聞く

顔を見ぬうちは落ち着かぬ


チェヨンは足早に宣仁殿を
後にした



*******



『今日よりも明日もっと』
愛することは 信じること
信じることは 愛すること


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