典医寺の隅にある
遅咲きの梅の花が咲いていた

甘くいい香りが
典医寺の中庭に漂う


春ね・・・


ウンスが梅を見ながら
トギに話しかけた

トギは黙って頷く


高麗の春はどんなのかしら


まだ 秋と冬しか知らない
ウンスは 独り言のように
呟いた


花が咲くわよね
鳥もさえずるわ
暖かくていい季節よね
チェヨンの
腕の中みたいに・・・


どこか遠くを見るように
ウンスがまた呟いた


トギは ただじっと黙って 
ウンスを見つめていた

暫くすると


決めた


ウンスは突然そう言って
診療室の中へと入っていった
後を追うように
トギが続いた・・・



*******



朝 閨でいつものように
食むような
甘い口づけをした


数日肌を合わせていない


互いのお役目の忙しさもあり
武閣氏と奥女中の差配で
屋敷を空けることに
心配も減ったから
帰りが遅くなる日が
続いていた


だが それを差し引いても
ウンスの様子が どうも
いつもと違う

どこかよそよそしい
そんな気がしていた


なにか あったのか?
と尋ねても
別に としか答えない


忙しさにかまけて
なにか怒らせるような
ことをしたであろうか?


考えても浮かばなかった
だいたい会えていないのだし


わからぬ・・・


チェヨンはひとりごちた

ただ はっきりしているのは
沈んだような
どこかよそよそしいような
妻の姿に ひどく
落ち着かない と言うことだ

悩みは一人で抱え込む
そういう女人
俺は 頼りにならぬのか
寂しい気持ちでウンスを
見つめた・・・



*******



兵舎の私室で 
戦略を練りながら
ウンスのことを考えていた

そう言えばここ数日
塞いでいる気がすると
ヘジャが言っておった

奥向きに他人を入れたから
気まずいのかと思ったが
そう言う訳でもなさそうだ

典医寺で難しい患者でも
いるのだろうか・・・
あとでこそりと
チェ侍医に尋ねてみるか


そう考えていた・・・


開け放たれた
扉の向こうから
トクマンの声がする


階段の辺りで
チェンソクに何か
話しているようだ


隊長
あれはまずいですよ
大護軍のお耳に入れた方が
いいんじゃないですか??


なんだろう と
聞き耳を立てる


そんなくだらん噂など
捨て置け
だいたい医仙様が
そんな訳ないだろう


イムジャ?


慌てて 二階から
下にいるトクマンに
声をかけた


何があった


チェヨンに聞かれていると
思っていなかったふたりは
ぎょっとした顔をした



いえ あの
なんでも・・・


いつぞやのしごき稽古を
思い出し 口ごもる・・・


よいから
申せ
イムジャがどうしたのだ


噂でございます
埒もない・・・


だから 言うてみよ


ですから・・・
チュンソクも口ごもる


トクマン しごかれたいか??


い いえっ あのう
医仙様が 若い文官に
懸想しているのではないかと


チュンソクが間に入る
誰かの戯れ言でございましょう
決して そのようなことは・・・


無論 そのようなこと
あるわけがない


チェヨンは笑い飛ばした


空気を読まない
トクマンが言う


典医寺で
診察に来た文官と
抱き合っているのを
見たと言うものがおりまして


何を たわけたことを
そう見えただけであろう


ですが それ以来
医仙様が
ふさぎ込んでいる様子
道ならぬ恋にお悩みなのかと
もっぱらの噂でございます


だいたい あそこには
チェ侍医もおろう
そんなことある訳がない


たまたま トギと侍医は
往診に出ており
急患だったその文官を
医仙様自ら 診察された由


あり得ぬと 
ふたりの手前 呆れながらも
ここのところの塞ぎの原因が
もしかしたら その男かと
心穏やかにはいられない
チェヨンであった・・・


春だというのに
今日はなぜか冷える
チェヨンは思った・・・



*******



『今日よりも明日もっと』
惚れた腫れたも
なんとやら・・・



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