酔って帰った次の朝

昨日は随分と
大暴れした虎がいたわね


朝餉の盛りつけをしながら
ウンスが笑った


首筋にはしっかりと
暴れた跡が印されている


ああ ちと
飲み過ぎた・・・


照れたように
チェヨンが言った


ほんとに酔っていたか
怪しいもんだけど
もう無茶な飲み方はしないでね
心配だわ


ああ
あんな馬鹿な賭け事は
アンジェくらいとしか
やらぬゆえ
もうせぬ


そう よかった


厨房から運んで来た
鉄鍋の中には
いい香りの海鮮汁
チェヨンもウンスも
好んでよく食す


椀に盛りつけようと
蓋をあけた
温か気な湯気が
ふわりと立ち上り
おいしそうな匂いが
チェヨンの鼻孔を刺激した


からん・・・


ウンスが
蓋を落とした


どうした
やけどはしなかったか


すぐさまチェヨンは
近寄って
ウンスの手元を確認する


少し赤くなっている


水場から冷水を桶に運び
手を冷やした


大丈夫よ
おおげさね


なれど 美しい白い手に
傷でも残ったら
いかがする


ヨン・・・朝から
すっごいこと言ってるわ


・・・
して どうした
気分でもすぐれぬのか


照れを隠すように
チェヨンが聞いた


なんだか 急に
汁の匂いが
気持ち悪くて・・・


どうしたのであろう
医者の不養生はよくない
あとでチェ侍医に診てもらおうか


大丈夫よ



なれど


あら 私のからだを
チェ侍医があちこち触っても
平気なんだ


からかうようにそう言って
笑顔をみせた


まあ それもそうだ
では とりあえずトギに
薬湯を煎じてもらおうか


そうね
なんだか今日は
食べたくないわ


食欲のない妻を初めて見た
チェヨンは心底驚いて
なにかよからぬ病ではないかと
急に心配になった


この際 チェ侍医のことは
目を瞑る
チェ侍医はイムジャと変わらず
腕のいい 医者ゆえ
やはり 診てもらうとしよう
ただ 俺も立ち会うが


チェヨンはそうきっぱり
言った・・・



*******



朝の典医寺の出仕風景

武閣氏ふたりが前を歩き
その後に 並んでふたり

更に後方をテマンが追従

いつもの光景が
今日は少し様子が違った


武閣氏ふたりとテマンを
診療室の外に待機させるのは
いつものことだが
そこで兵舎に向かうはずの
チェヨンが 今朝は一緒に
ついて来た


いかがされました


窓から様子を見ていた
チェ侍医が尋ねる


ああ 
妻の具合が悪そうゆえ
チェ侍医に
脈診してもらおうかと


大丈夫って言ったのに
大げさなのよ


手の甲が少し
赤くなっているようですが


ああ ちょっとね
しくじっちゃって
でも心配ないわ
やけどって言ったって
軽傷よ


どれ 


そう言ってウンスの手を取る


チェ侍医 手はよいのだ
もう手当も済んだゆえ
問題は 食欲がないことだ
吐き気もすると言う


そうですか
では 脈診を


と やはり手首を掴んだ


苦い思いをしながらも
診療だから仕方ない
なんども自分に言い聞かせ
チェヨンは
チェ侍医を見つめていた


う・・・ん
とくに 今のところ
気になる脈はありませぬが
念のため あちこちと
診察しておきましょうか


ああ 頼む


では 診察台に横に


は? 
とチェヨンがうろたえる


吐き気なら 腹の可能性が
高いはず
触診しなければわかりませぬ


触らずわからぬのか


もう ヨン
いい加減にして
医者が患者を診るのは
当たり前っていつも
言ってるでしょう
チェ先生は医者として
触診するって言ってるの


どうだか・・・


チェヨンがうそぶく


ごめんなさいね
どうも
チェ先生のことになると
すぐムキになるのよ


それを聞いた
チェ侍医が微かに口元を
緩めた


して どうされます
腹を診ましょうか?


ううん いいわ
ここで衣を脱いだら
ヨンが卒倒しそうだもの


そう言って悪戯っぽく
笑った


イムジャ!


ウンスとチェ侍医は
顔を見合わせて笑った


でも 医仙様
もしかして 月のものが
遅れたりはしていませんか


ん?
どうかしら 言われてみれば
そんな気も・・・
まさか それはないわよ


何がないのだ


チェヨンが怪訝そうに
尋ねた


だから お子ですよ
その可能性はないのかと


はっ?
子が出来たのか?


いえいえ
その可能性はないかと
そう申し上げてるだけです


ヨン 聞いてる?
出来た訳じゃないわよ


だが 可能性がなくはない


・・・ ヨン・・・


*******



子が出来た・・・
その噂はすぐに
王宮中に広がった


いやいや
かも知れないってだけ


そういくら訂正して
あるいても噂が一人歩き
していく・・・

まったくどうしようもない



早耳のチェ尚宮の叔母様が
すぐに 典医寺にやって来て


よう やった
でかした


と 喜んだ


だから 叔母様
違うんです
ほんとに困るわ
確証はないんですから


あれだけ子づくりに
励めば いつ出来ても
可笑しくはあるまい


あれだけって・・・
何を知ってるの??

ウンスは赤面した


そこでだ
以前より頼まれていた
奥向きの女中だが
心当たりの者が
やっと 
今仕えている屋敷から
暇がもらえた
ウンスも子が出来たら
なにかと心細いであろうから
早々にチェ家に仕えるよう
頼んである


はあ・・・
それはありがたいですが
ほんとに 妊娠した訳じゃ
ないんですからね


まあよい まあよい


上機嫌でチェ尚宮は
そう言った


明日にでも そのものを
屋敷に連れていくつもりじゃ


はあ・・・
困ったわ・・・
単なる食べ過ぎとか
もう言い出せないじゃない


ウンスはひとり
頭を抱えた・・・



*******



『今日よりも明日もっと』
春遠からじと 人は言う・・・


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