もういい 
ヨンとは一緒に寝ない


イムジャ いい加減にせぬか
そのようなことを言われても
いつの話だと言うのだ


だって 気になるもの


くだらない
くだらない
焼きもちだってこと
自分でもよくわかってる
売り言葉に買い言葉
素直になれず
後戻りできない・・・


ウンスはぷいと膨れたまま
隣の部屋へと
引きこもってしまった


ああ もう知らん
好きにしろ


チェヨンは
布団をかぶり目を閉じた
イムジャが隣にいない床は
これほど広かったろうか
寂しさでいっぱいになる

いったい どうして
こんなことになったのか
先ほどまで肌を合わせ
愛し合っていたのに・・・

そうだ イムジャが
俺に言ったのだ
いつも幸せにしてもらってる
私ももっとヨンを喜ばせたい
もっと女を磨かなきゃ と


だから 俺は
妓生でもあるまいに
自分で磨かずとも
俺がイムジャを磨くから

軽口のつもりでそう言った


そこでイムジャは急に
怒りだし
妓楼の話を持ち出して
だいたいヨンは上手すぎる
そこに馴染みの女でも
いたんじゃないかと

10年以上も前の女のことなど
いちいち覚えている訳がない
だいたいそんな記憶すら
頭の中から とっくに
消え失せているというに

昔のことを
忘れていないのではないかと
急に噛み付いて来た


だから 
ああ もう知らん
好きにしろ
と・・・
言ってしまってから
後悔した

言うべきではなかった

イムジャがいない夜が
こんなに苦しいなんて・・・
下らぬ意地など捨ててしまえ
そう 何度も思ったが
俺は 
イムジャを裏切ることなど
一度もしておらぬ
なぜわからぬ

そう思うと意地が仲直りの
邪魔をした


そのまま朝を迎え
そのままふたり 出仕した



*******



典医寺で昼餉の折
チェ侍医に聞かれた


大護軍とけんかですか?


どおして?
少しびっくりしたように
ウンスが聞き返した


朝の典医寺への出仕も 
いっしょにいらっしゃらぬゆえ
それにずっと浮かぬ顔です


心配そうに尋ねる
チェ侍医はウンスのことには
とくに聡い


彼は悪くないのよ
私の悋気なの
急に不安になっちゃって


不安?


ええ 
私の知らない彼がいるのが
すごく嫌なの
昔のことを気にしても
仕方ないのにね
ばかみたいでしょう
自分でもそう思うのよ


ふーっと息を吐きながら
ウンスが言った


そのような心配は無用と
思いますが・・・
大護軍は医仙様以外の女人
目に映ってはおりませぬゆえ
他の女人は道ばたの石ころと
同じにしか
見えてないことでしょう


そうかしら?
私と出会う前のことを
気にしても仕方ないのは
わかっているんだけどな


医仙様がそれだけ大護軍を
お好きと言うことでしょう


チェ侍医は優しく
諭すように言った


うん そう
そうだわ


ウンスは頷いた



*******



兵舎ではチェヨンが
朝から浮かぬ顔で
厳しい稽古を繰り返していた


ああ これは医仙様と
何かあったな

チュンソクは思ったが
夫婦喧嘩はなんとやらと言うし
成り行きを見守るか

そう思っていたところに
チェヨンから声がかかる


なあ チュンソク
女は男の昔のことが
気になるのであろうか


医仙様と何かありましたか?


いや 聞いてみたまで
すまぬ 気にするな


はあ なれど
医仙様は明るく強いお方ゆえ
なかなかお心のうちを
お見せにはなりませぬ
なにか言われたのだとしたら
大護軍には素直にお心をお見せに
なられていると言うこと
ではないですか?


・・・
そうだな・・・
俺もちと意地をはり
話がこじれてしまったようだ



何にしても
早く仲直りしてください
ふたりが喧嘩していると
まわりも落ち着きませぬ
テマンもトクマンも
ウダルチ皆が心配しております


そのようなこと・・・
喧嘩したなど一言も
言った気はないが・・・


見ていれば皆わかります
大護軍の顔つきが
まったく違いますゆえ


・・・


皆のためにも
今宵はちゃんと
仲直りしてくださいよ
大護軍


・・・


チュンソクに諭されるように
言われ 黙るしかない
チェヨンであった



*******



夕刻 ウンスが
薬草園の花のふちに腰掛けて
物思いに耽っていると
典医寺預かりとなり
下働きとして召し抱えられた
チェ侍医を刺した女人がそばを
通った

名をスヨンと言ったその女人は
罪を犯した頃にくらべて
どこか吹っ切れたような
清々しい顔つきをしていた


スヨンさん
何か困ったことはない?


はい 医仙様
皆様には大変よくして頂き
私のようなものに
恐れ多いことでございます


そう ならよかった
何かあれば遠慮せずに
言ってね
私に言いづらければトギでも
だれでもいいわ
典医寺では身分で分け隔てなく
みんなが気持ちよく働ければ
いいなあと思っているのよ
それにいずれはスヨンさんの
身分も回復できると思うしね


ウンスは微笑んだ


ありがとうございます
・・・医仙様
あのう ところで
お顔の色がすぐれぬように
思いますが
ご気分でも悪いのですか?


ううん ちょっとね
考え事していただけよ


そうですか・・・あのう
大護軍様と何かありましたか?


みんな私が元気がないと
どうして大護軍のことと
思うのかしら?
チェ侍医にも
トギにも言われたわ


おふたりのまわりの
温かい空気は見ているものを
幸せにする
不思議な空気なのです
私は愚かにも
それに悋気いたしましたが
今はわかります
だから皆が
気にかけているのでしょう

それに相手が死んでしまうと
喧嘩も何も出来ませぬゆえ
喧嘩できるのは幸せな証拠と
思いますが・・・


スヨンは噛み締めるように
呟いた・・・


ありがとう
スヨンさんに
そう言ってもらえると
なんだか心に沁みるわ
大丈夫よ
意地ははらないって決めたから
それにね ヨンが隣にいないと
落ち着かないのよ うふふ


紅をさしたように頬を赤らめ
照れた顔でウンスが笑った


そうですか
それならばよかった・・・


スヨンの後ろ姿を見送りながら

もうすぐ屋敷に帰る時間
ヨンは
迎えに来てくれるだろうか

そうぼんやりと考える


薬草園に西日がさす
暮れていく空を眺めながら
チェヨンが来るのをウンスは
じっと 待っていた・・・



*******



『今日よりも明日もっと』
不安も心配も 焼きもちも
あなたのことが大好きだから・・・


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

典医寺の新しい登場人物
スヨンさん・・・のお名前は
お手伝いさんにご応募いただいた
agemaki様 さりぞう様
m!zuk!様 wankomino様 より
お借りいたしました
ありがとうございました



★えみりん様
しょうもないことで喧嘩して
ウンスがヨンをお預けさせる話のリク
大変!! しょうもないことのはずが
ことが大きくなりました!!

さてどうしましょう この先も
おつき合いいただければうれしいです


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