王宮の空き部屋で
降り注ぐような
口づけをしていた
チェヨンの
動きが急に止まった


すまぬ
このような時に
このような場所で
俺はイムジャに何を
しようとしていたんだ


そう苦々しく言うと
ウンスを離した


え?やめちゃうの?
思わず口にしそうになり
慌てて口を抑える

そう チェヨンの言う通り
それが正しい 賢明な判断
がっかりしてるなんて
ばれたら 大変


乱れたウンスの衣を
チェヨンが素早く直す


乱れた呼吸を気取られぬよう
努めて冷静な振りで
ウンスは言った


私もチェ先生の様子
見てこなくちゃ
トギに任せっぱなしだから


腕から逃げるように 離れた
もうからだが
どうにかなりそうなのに
チェヨンのばか・・・
心の中で そう呟いた


そうか・・・
俺も 康安殿に寄って
王様に今回の件 報告してから
典医寺へ行く
侍医にも礼を言わねばならん


うん わかった
じゃあ あとで 典医寺でね


何事もなかったように
ふたりはその場を離れた



*******



まだ熱い頬を冷ますように
冷たい両手で挟みながら
ウンスは典医寺へと急いだ


病室には沈香が焚かれている

部屋の寝台の上には
チェ侍医が規則正しい寝息を
立てている

トギに様子を聞くと
変わったことはなかったと 
教えてくれた

脈を診た
落ち着いているようだ
額に手をあてる
熱もない

もともとそんなに深く
刺されてはいなかった
数日のうちには回復する
ウンスはほっと
胸を撫で下ろした

それにしても・・・
一瞬の出来事に
何のためらいもなく
身を挺して守ってくれた

あの女人もチェ侍医が間に入り
驚いて手を緩めた
だから大事には至らなかった


ごめんね チェ侍医
ありがとう
助けてくれて・・・


小さな声で 眠っている
チェ侍医に伝えた


トギが薬剤を取りに
薬剤室へと出て行くと
チェ侍医が目を開けて


医仙様をお助けできて
よかった・・・


そう言った


気がついたの?


ええ 先ほど・・・
今回のこと あなた様が
気に病むことではありません
医者として人を救うのは
当たり前のこと


でも 私が逆の立場だったら
怖くてからだが動かないもの


なれど
大護軍ならばこのように
刺されることもなく
あなた様のことも
お守り致したでしょうに・・・


そりゃ ヨンは武士だもの
私達医者とは鍛え方が
違うもの・・・


ウンスは微笑んだ


して あの女人は
どうなりそうですか?


難しそうな顔をして
チェ侍医が尋ねる


チェ先生を斬りつけた罪は
なくならないってヨンが・・・
もとは同じ戦で戦った仲間の
奥様でしょう
できるだけ罪を
軽くしてもらえるよう
手を尽くしたいっていってたわ
それで今 康安殿に相談に
行ってるの


そうですか・・・


官奴婢として地方の役所に
送られるんじゃないかって
心配してるのよ


チェ侍医は天井を見つめ
物思いにふけるような
素振りを見せてから
静かに言った


医仙様・・・
その女人 
典医寺で預かりましょう





どのみち 下働きか妓生かと
いったところでしょう
なれば ここの下働きでも
構わぬのではないですか
それにここなら医仙様が
身分で区別などせず
皆が働き易いようにと
お心を砕いて下さる
その女人も
それほどつらくはないかと


でも チェ侍医を
刺した女の人よ
その人を側に置いても
構わないっていうの?


私は医仙様や大護軍に
もっと酷いことをしました
なれど おふたりに 
こうしてお許しいただいて
医者としてまた王宮に
お仕えすることが出来ております
このような傷は大したことでは
ありませぬ

医仙様 
人の心とは不思議なものです

同じものを見ても
自分だけが不幸だと思えば
何事も歪んで見えます
なれど人の温かさに触れて
癒されれば 
優しい見方が出来る

私はそれをあなた様から
教わりました・・・
許された私だから言えるのです
その女人も いまは
心が冷えておっても
ここで 皆で助け合うていけば
きっと幸せだった頃の
自分を取り戻しましょうぞ


チェ先生・・・
ほんとうにそれでいいの?
そうできれば
ヨンの心も少しは軽くなる
私の気持ちも・・・
ありがとう


潤んだ瞳でウンスは
チェ侍医を見つめた・・・
チェ侍医が微笑みながら
頷いた


トギがチェヨンとともに
病室に戻った


どうした?


少し泣き顔の妻を
気にかける


ううん チェ先生が
あの女の人を助けたいって
優しいことを言うから
うれしくって・・・


そうか・・・
侍医 妻の身代わりになって
もらったこと礼を言う
傷はいかがだ


医仙様は 名医ですので
傷も早く癒えましょう


そうか・・・
まこと 迷惑をかけた


そう言い終わるとすぐさま
チェヨンはウンスを伴い
奥の部屋へと行ってしまった



*******



イムジャ・・・





他の男の前で泣くな


あれは 別に泣いてた訳じゃ


そう言いかけてチェヨンに
抱きすくめられた


イムジャの泣き顔を他の奴に
見られたくはない
俺はイムジャのことになると
了見が狭い
他の男に隙を与えるな


そう言いながら
チェヨンはウンスの目尻に
溜まったわずかばかりの涙を
吸い取った


あっ とウンスは
思わず 声を上げる


先ほどもやっとの思いで
踏みとどまったのだ
これ以上 
俺を焚き付けないでくれ 


私もよ チェヨン
ほんとは 私も・・・
ヨン 私やっぱりあなたと
家に 帰りたい


ここではだめなのか


ここは嫌 
だって
チェ先生もみんなも
近くにいる
聞かれたくないから
こえ・・・


赤くなって俯いた・・・
その愛らしい姿を
いとしい妻を
早くこの手に収めたい


チェヨンはウンスを見つめた


早く元気になるといいわね
チェ侍医もあの女の人も・・・


ウンスがチェヨンに
優しくそう言った


ここまで 沈香の
ほのかに甘い香りが
漂ってくる
心を溶かすような
甘い香りが・・・



*******



『今日よりも明日もっと』
ふたりで一緒に乗り越えていく
どんなときも・・・
どんなことも・・・



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