夕刻 
女人が落ち着いた頃を
見計らって

チェヨンはウンスを連れて
王宮の一室で
女人を取り調べた


年はウンスより5歳年上と
聞いたチェヨンだが 
その女人のあまりの
やつれた様子に目を見張った
ばさばさな髪を一つに結わえ
顔に生気はなく
目もくぼみどんよりとしていた
疲れた顔がよりいっそう
老けた感じを醸し
なんともやり切れない

それほどまでに
生活に困窮したということか


そなたの夫は龍虎軍(ヨンホ)
に いたそうだが


はい 大護軍様


先の鴨緑江の戦の折
元の攻撃を受け 戦死したと
そう伝え聞いております


そうであったか
激しく長い戦だったゆえ
味方も多く失った・・・

しかし申し訳ないが
俺もそのすべての兵士を
記憶している訳ではない
数万といるのでな

そなたの夫のこと
気の毒に思う
戦で命を失ったこと
総大将として 
深く詫びねばならん
すまなかった・・・
苦労をかけたのだな


大護軍様・・・


だがな それと
今回のこととは話が違う
俺に向けるべき刃を
なぜ わが妻に向けたのだ
その結果 典医寺の侍医が
傷を負ったのだぞ


私はどうかしてました・・・
夫は高麗の兵士として
高麗のために
命を捧げる覚悟だと
いつも申しておりました
大護軍様のことも敬愛して
おられました
なのに 私ときたら・・・


大変だったのよね
私も同じ武士の妻ですもの
私も覚悟して結婚したけど
でも この人がいなくなったら
そう思うだけで苦しくなるもの


イムジャ・・・
話を聞かねばなりませぬ


チェヨンがまだ話した気な
ウンスを制して
女人に話の続きを促した


すみません 医仙様
あなたがが本気で
憎うございました
市場でお二人が仲睦まじく
買い物をされている姿
それはそれは楽しそうで
あのような様子
私には二度と戻らないと
胸が締め付けられました

医仙様は大護軍様が
お慕いし続け長年待ちわびて
やっと婚儀を挙げられたこと
私も存じておりました
なればなおのこと
同じ女として 医仙様は
輝くばかりに美しく
お幸せそうで・・・

それに大護軍様が医仙様を
見つめるご様子も・・・
なんともうらやましく・・・

夫が生きていれば たぶん
なんとも感じないことでも
ひどく心が波立ちました
私には夫が全てでございました

なんだか
お二人の幸せが夫の犠牲の上に
あるような気がして・・・
そんな訳ではないのに・・・
それで 医仙様を・・・
ほんとうに浅はかな考えです


ウンスは女人の目を見て言った


戦ですもの 
死ぬか生きるかしかない・・
わが夫も高麗の武士
そういうところを
何度も くぐり抜けてきた
でも 私の夫はけっして
命を粗末には扱わないわ
味方の兵士が
犠牲にならないように
つねに策を練っている
でも戦には どうしても
理不尽な犠牲はつきもの
夫も 戦うたびに 
心を痛めて 苦しんで 
そうして
毎日過ごしているのよ
決して 死んだ人のことに
想いが至らない人ではない

残された人の苦しみを
人一倍知っている人だもの

だからこそ今この時を大切に
私のことも大切にしてくれる
今回のことで
もし私に何かあったら
自分を責めて
この人の心 深く傷つくわ
そんな気持ちがわかるから
だから
この人の心を傷つける相手を
私は許せないわ


ほんとうに・・・
ほんとうに私は
何と言うことを
しでかしたのか・・・


そう言うと女人はうなだれた


でもね 同じ武士の妻として
あなたの気持ちもわかるのよ
だから
私に向けられた刃物の
ことはもう忘れたわ・・・
それはもう気にしないことに
したの・・・


医仙様・・・


だが 
イムジャがいくら許したとて
侍医を傷つけたことは
償わねばならん
そなたの心情も
よくわかったゆえ
追って沙汰があるまで
牢で我が身を振り返るがよい


女人は 深く頷いた



*******



典医寺に戻る途中
回廊をふたりで歩いていると
突然チェヨンに手を引かれ
空き部屋に引き込まれた


何も言わずに抱きしめる
チェヨンのやり切れなさが
苦しいほどわかり
ウンスの腕にも力が入った


暫くしてからチェヨンが
ウンスの耳元で告げた


ウンス・・・
ウンスにはあのような
想いは決してさせぬ

俺は必ず生きて
ウンスとともに
時を重ねていく


うん 
私も あなたが嫌だって
言っても どこまでも
ついて行くんだから・・・


激しく重なる唇を
ウンスは心で受け止める


ああ 
この非常時に
何をやってるんだと 
またトギに呆れられるわ


頭の片隅でそう思いながら
止まることのない
チェヨンの動きを
チェヨンの心を
拒めそうにない
ウンスであった・・・



*******



『今日よりも明日もっと』
あなたの想いを受け止めて
私はもっと強くなりたい・・・


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