愛馬チュホンの背に揺られ
とことこと 都のはずれの
小高い山の林道をあがる

外套を着込み そのうえから
チェヨンの外套に
くるまれていても
足先から じんじんとした
冷たさを感じて
ウンスは
ぶるりと身震いをした


寒いか


ウンスの答えを
待つまでもなく
チェヨンは腰に回した腕で
ウンスのからだを自分に
引き寄せ密着させた

首筋にかかるチェヨンの
息が熱い

心臓の音が聞こえて
しまうのではないかと
思うほど どきどきする



大丈夫よ
背中は温かいし・・・
でも まだ着かないの?


いや もうすぐだ


林道を抜けると
土地が開けていた



あれ?  お寺?


ああ チェ家の菩提寺だ
婚儀の前にイムジャを
引き逢わせたいと思うて


そう 
私もゆっくりご挨拶
したいと思ってた


ウンスは静かに言った


愛馬チュホンを寺に預け
さらに山の中に分け入ると


平地にりっぱな石壁に囲まれた
こんもりとした土墓がふたつ
仲良く並んで建立されていた



ここ?


ああ 俺も久方ぶりだ


チェヨンが墓に触れて
目を閉じている



幼い頃 母親と死別した
16歳のとき父親も他界した
身内代わりの赤月隊も
次々に失い
本当に 昔は
人の縁が薄い人生を
歩んできたのかも知れない
ウンスは思った



父上 母上
この方が縁あって
夫婦の契りを交わした 
わが妻 ユ・ウンスです
俺が天界から無理矢理
連れて来た方です
この方を欲し
他は何も要らぬとまで
恋い焦がれたお方です

俺の抱いた欲がこの方に
災いとならぬよう
どうかこの方にご加護を
そして俺たちの行く末を
見守っていてください


ずいぶんと長い間
チェヨンは両親に
話しかけていた



はじめまして
お父様 お母様
600年以上も前の時代から
彼のそばにいたくて
ただそれだけで
後先考えずに高麗に来ました

いつも私を守ってくれる彼を
私も守っていきたいから
どうか私に力を貸して下さいね
彼のことずっとずっと大切に 
ふたりで生きていきますから


目を開けるとウンスを見て


イムジャのこと
よくよく頼んでおいた
目を離すと危のうて
仕方ないゆえ


笑い顔が清々しい気がした


もう一カ所 寄りたい墓がある





チェ家の墓から
少し離れたところに
ふたつの墓が並んであった


ひとつはメヒの墓
もう一つは
メヒの叔父の墓
赤月隊の同志であった
戦で俺を助けるために
身代わりで死んだ


苦しそうに言った


そう・・・
メヒさんと叔父様の・・・


許嫁のメヒさんのことは
ウンスから触れてはいけない
話の気がしていた


亡くなった許嫁を思って
7年間も氷の中にいた人だもの
もともと ものすごく
一途な男に違いないわ
もし メヒさんが生きていて
もし ふたりが愛し合ったいて
そこに もし天界から私が
連れてこられたとしたら
それでも彼は私を好きになって
くれただろうか

そう考えただけで
胸の奥が焼け付くように
息苦しくなる・・・



もしも・・・

チェヨンが言った

もしも 
赤月隊の不幸がなくて
もしも
メヒが生きていたら
どうしていただろうかと
考えた


聞きたくない その話


ウンスが耳を塞ぎ
墓の前にしゃがみ込む


構わずチェヨンは続ける


天界でイムジャに出会った時
俺はすでに
イムジャに
懸想していた気がする

天界に戻すと約束した俺は
イムジャに対する想いを
認める訳にはいかず
心に封印をしたつもりであった

だが結局 
心を封印できずに今に至る

あんなに思っていたはずの
メヒの顔も思い出せないくらい
イムジャが心に住み着いておる



チェヨンも しゃがんで
耳を塞ぐウンスの両手を
耳から離した

ウンスの瞳が苦しそうに
潤んでいる


もしも あの時と
振り返ったところで
意味はないが

なれどもし メヒが
生きていたとしても
俺はイムジャを選んだ
酷い男だ
だからそれを
メヒに謝りたくて
そしてイムジャにも
それを知って欲しくて
ここに連れて来た

俺はメヒを好いておった
それはうそじゃない
ただ イムジャのことを
愛するように
愛してはいなかった

すまぬ メヒ・・・





一陣の風がふたりの間を
通り抜ける


もう いいよ・・・
チェ・ヨン


メヒの声が聞こえた



*******


『今日よりも明日もっと』
幸せにしてあげたい・・・


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