神話的性格の強い、いかにもアイヌらしいお話です。

 

《 あらすじ 》

 

昔、雲の上で、雷さまの妹が大きなあくびをしました。

 

 

「ああ、何か面白いことがないかなぁ。兄さんは、あっちで雨を降らせたりで忙(いそ)がしくて、ちっとも遊んでくれないし、つまんないなあ」

雷さまの妹は、とても退屈(たいくつ)していたそうです。

「そうだ、こんなときは雲の下に降りてみよう。どこがいいかなあ」

雲の下を見ると、シシリムカと呼ばれる川の水源に山が見えました。

近くにはコタンという人間の村もあります。

雷さまの妹は、早速、雲の上からそのコタンへ降りて行きました。

けれど、そのコタンにはどの家からも食べ物を焚(た)く煙が上がっていないし、人間の元気な声も聞こえません。

(おかしいなあ。どうしたんだろう)

雷さまの妹が不思議に思って耳を澄(す)ましていると、ようやく人間の声が聞こえてきました。

 

 

「もうお腹が空いてたまらん。何か食う物はないのかね」

それが何にもなくて困っているんですよ。子どもたちにだけでも食べさせてやりたいんだけど」

やがて、お腹を空かせて泣いている子どもの声も聞こえてきました。

(大変だ。人間たちが食べ物がなくって困っている。天の神さまに知らせてあげよう)

雷さまの妹は、そう思って、遠い天にむかって大声で叫(さけ)びました。

「フッホー」

 

 

その声を聞いた天の神さま、カムイたちは驚きました。

「何だ。何の声だ」

雷さまの妹は、また天にむかって叫びました。

「天の神さま、天の神さま、コタンには食べ物がなくて、人間たちが死んでしまうよ」

それを聞いて、カムイたちは相談しました。

「しまった。コタンに食べ物を降ろすのを忘れていた」

「大変だ。急いで食べ物を降ろしてやろう」

「いちばん早く届けられるのは誰かな」

 

 

そのとき、フクロウの女神さまが言いました。

「いちばん早くコタンに行けるのは、翼(つばさ)を持っている私でしょう。

ウマツを持って私が行きます」

ウマツというのは魂(たましい)のことで、カムイたちは、物にその魂を与(あた)えて食べ物に変える力を持っていました。

「よし、急いで行ってくれ」

「待て待て、どの川に降ろすのだ。シシリムカの川は水がきれいだが、流れが荒(あら)いぞ」

「それなら、水がきれいで流れも静かな鵡川(むかわ)に降ろしたほうがよいだろう」

カムイたちは、生き物のウマツをたくさん集めるとフクロウの女神さまに持たせました。

「よし、これを鵡川に降ろしてきてくれ。急ぐんだぞ」

カムイたちの住む天には大きな川があり、その河岸には柳(やなぎ)の木が生えていました。

フクロウの女神さまはその柳の枝を折って持つと、翼を広げて鵡川に降りていきました。

 

 

そして、柳の枝の葉とウマツを一諸に鵡川に流しました。

「さあ、柳の葉、シュシュハムよ。元気に泳ぎなさい」

フクロウの女神さまがそう言うと、シュシュハムと呼ばれた柳の葉に魂が宿って魚になり、元気に泳いで川を上(のぼ)って魚になり、元気に泳いで川を上っていきました。

それからフクロウの女神さまはコタンに行くとまだ眠っている人間の夢に出て教えました。

「朝になったら川に行ってみなさい。シュシュハムという柳の葉のかたちをした魚の群れが上ってくるだろう。小さい魚だがおいしいよ。特に雌(めす)は卵をたくさん抱(だ)いているから、とてもおいしいよ」

夢で教えられた人間は、朝になると川に行きました。

 

 

すると川の底を、柳の葉のかたちをして魚が上ってきました。

人間はコタンに戻って叫びました。

「おーい。魚の群れが川を上っているぞ」

こうして、お腹を空かせていたコタンの人々は、シュシュハムという魚のおかげで救われました。

そのころ天から様子を見ていたカムイたちは、首をひねっていました。

 

 

「どうもおかしい。もっとたくさんのウマツがあったはずだがなあ」

そこで、フクロウの女神さまを呼んで聞きました。

「もっと持たせてやったはずだが、どうしたのか」

フクロウの女神さまは、そのとき思い出しました。

「そう言えば、空をあんまり早く飛んだので、途中で柳の葉を少し落としてしまいました。

「それで、その葉が落ちたのは、どのあたりだ」

 

 

「たぶん、八雲(やぐも)にある有楽部(ゆうらっぷ)という川のあたりです」

そこで雷さまの妹が探してみると確かに有楽部という川の近くに柳の葉が落ちていました。

その柳の葉はウマツがないからシュシュハムの魚になれず腐(くさ)りかけていました。

 

 

雷さまの妹は急いで柳の葉に魂を宿し、有楽部という川にも、シュシュが上るようになりました。

コタンの人たちはフクロウのい女神さまが教えてくれたように、その魚をジュジュハムと呼んでいたが、だんだんと呼び名が変わり、今ではシシャモと呼ばれています。

シシャモは、雷さまの妹が天のカムイに頼(たの)んで降ろしてもらった魚なので、十一月の初めごろの時化(しけ)は、シシャモが川に上るのを知らせるように、雷が鳴り、海が荒れます。

それをコタンの人たちは、«シシャモの時化»と呼んで、シシャモを迎える盛大な祭りを行うそうです。

 

《 わたしの感想 》

 

北海道の鵡川町は、おいしい魚の聖地で有名です。

シシャモは、太平洋沿岸に生息し特に鵡川町で捕れるものは本物のシシャモと評価されています。

本シシャモの魚期は10月から11月の短い期間です。

ヘルシーで、見た目もシンプルでとても美味しいお魚です。