地獄と業師(わざし)は、医者と山伏(やまぶし)、鍛冶屋(かじや)の三人が地獄で出会って、それぞれの業(わざ)で大活躍(だいかつやく)するお話です。
《 あらすじ 》
人間は死ぬと、三途(さんず)の川を渡ってあの世へ旅に出るのだといいます。
昔昔、ある村で、医者が流行(はや)り病にかかり、死んでしまいました。
医者はしかたなく三途の川を渡って、とぼとぼとあの世の入口まで行きました。
するとそこには閻魔(えんま)大王が座っていて、あの世にきた人間を、地獄にやるか、極楽にやるか決めていました。
閻魔大王の持っている鏡には、この世でした良いことも悪いことも、みんな映ってしまうといいます。
医者は閻魔大王の前にでると、深々とおじぎをしてから言いました。
「私は医者でございますから、これまでにたくさんの人の命を助けて参りましたが、この度、流行り病で自分が死んでしまいました。
閻魔大王さま、どうぞ、私を極楽へ行かせてくださいませ」
ところが閻魔大王は、鏡を見ると大きな声で怒鳴りました。
「いや、だめじゃ、だめじゃ。この鏡は何でもお見通しじゃ。お前はずいぶん悪いことをしてきているではないか。«妙薬(みょうやく)じゃ、妙薬じゃ»と言って、鼻くそを丸めて売りつけたり、はたまたもう治っておる病人に«いや、まだまだ»と言ってはいつまでも治療(ちりょう)代を取り続けたりしておった。お前は地獄行きじゃ」
がっかりした医者は、一人で地獄へ行くのは恐(おそ)ろしいから、旅の道連れが欲しいと思って、しばらく座って待つことにしました。
すると向こうから山伏(やまぶし)がひょこひょこやってくるのが見えました。
山伏は、閻魔大王に言いました。
「私は山伏です。生きているときには、ずいぶんと人助けをしました。
病にかかった人あれば神さまに治るようにお願いし、不運な人あれば祈祷(きとう)をしてきました。どうぞどうぞ、極楽行きにしてください」
けれど閻魔大王は鏡を見ると、
「お前は大うそつきじゃ。神や仏の祟(たたり)で病になったとうそをつき、いらん祈祷をしては金をもらっていた。これでは、地獄行きじゃ」と言いました。
山伏がしょんぼりと歩いてきたので、医者は声をかけました。
「山伏殿、山伏殿、わしも地獄行きじゃ。一諸に行こう」
こうして山伏と医者は、一諸に地獄へ出かけることになりました。
そのとき、またしても閻魔大王の怒鳴る声が聞こえました。
見ると、閻魔大王の前で鍛冶屋(かじや)が縮こまっています。
「お前は鍛冶屋の風上(かざかみ)にもおけんやつじゃ。できもしない仕事に前金をとっては、«明日にできる、明日にできる»と大うそばかりつきおった。お前のようなやつは地獄行きじゃ」
閻魔大王から逃げるように走ってきた鍛冶屋に医者と山伏が声をかけました。
「鍛冶屋殿、わしらも地獄行きじゃ、三人で仲良く行こう」
それから三人は暗く細い道をどんどん進み、やっと地獄に着きました。
門のところに大きな赤鬼が立っていて、三人をぎろりとにらみつけると言いました。
「たった今、閻魔大王さまからお達しがあった。お前たちを剣(つるぎ)の山に
送る」
赤鬼に連れ込まれた部屋には、数え切れないほどの剣が上にむかって生えている大きな山がありました。
「さぁ、お前たち、さっさとこの山を登らんか」
赤鬼は怒(おこ)って急かすが、医者と山伏は怖(こわ)くて怖くて、とても歩くことができないと座り込んでしまいました。
すると、鍛冶屋は担(かつ)いでいた鍛冶道具を下ろし、なにやら始めました。
カンカン、コンコン、ドッスン、カンカンと音がしたかと思うと、生えていた剣を使って、あっという間に三足の鉄のわらじを作りました。
「さあ、この鉄のわらじを履(は)いて、鉄の山を蹴飛(けと)ばしながら行こう」
三人は威勢(いせい)よく、鼻歌を歌いながら、七日七夜(なのかななよ)、剣の山を蹴とばして、みんな折り曲げてしまいました。
それを見て驚いた赤鬼は、急いで閻魔大王に知らせました。
閻魔大王は怒って、
「なんだと。ならばあの三人を地獄でいちばん熱い釜(かま)に放り込んで釜茹でにしてしまえ」と怒鳴りました。
赤鬼はすぐに熱湯のたぎった釜を用意すると、三人を捕(つか)まえて、
「さ、この湯の中に入れ」
と釜の中に押し込もうとしました。
煮えたぎった釜を、見て医者と鍛冶屋は足がすくんでしまいました。
すると山伏は、
「わしが先に入る。なに、心配することはない」
と言うと、何やら呪文(じゅもん)を唱えながら、鉄のわらじのまま釜の中に入っていきました。
「さあ、もういいだろう。中に入れ」
医者と鍛冶屋も鉄のわらじのまま、おそるおそる釜に飛び込みました。
すると釜の中のお湯はすっかりいい湯加減になっていました。
三人は釜の中で七日七夜踊(おど)りまくり、とうとう地獄の釜を踏(ふ)み割りました。
これに驚いた赤鬼は、また閻魔大王のところへ駆(か)け込みました。
閻魔大王はますます怒って命令しました。
「赤鬼よ、あの三人を、飲み込んでしまえ」
赤鬼は、大きく耳まで裂(さ)けた口を開けて、すごい勢いで三人にむかっていいました。
これを見た山伏と鍛冶屋は、もうだめだと思って震(ふる)え上がりました。
すると医者が、平気な顔をしてわれ先にと、赤鬼の大きな口の中に飛び込んでいきました。
そして、持っていたしびれ薬をパラリとまきました。
赤鬼は医者を噛(か)もうとしたが、薬がたちまち効いて、口がしびれて動きません。
口を開けたまま、よだれを流すばかりでありました。
「さあ、今だ。飛び込め」
山伏と鍛冶屋も、赤鬼の口の中に飛び込みました。
それから三人は、のどを通って腹まで行くと、鉄のわらじで暴れまくりました。
「痛い。痛い。もう、やめてくれ—」
あまりの痛さにたまらなくなった赤鬼は泣きだしてしまいました。
そして、
「許してくれ、閻魔さまに頼んでやるから、許してくれ」
と言って、三人を外に吐(は)き出しました。
それを聞いた閻魔大王はもう手に負えないとあきらめて、医者と山伏と,鍛冶屋は、地獄に行かずにすんだそうです。
《 わたしの 感想 》
閻魔大王は、医者と山伏、鍛冶屋の三人を、苦しめますが彼ら三人は知恵を使って様々な手段で閻魔大王、鬼たちを困らせます。
読んでいて思わずクスと、笑ってしまいました。