【肉体の悪魔】は16歳から18歳の間に書かれたと推定され、
1923年に出版された〈ラディゲ〉の処女小説である。
その不道徳な内容と、作者が20歳に満たない若者であることへの驚き、
そして青春小説としての見事な出来栄え、それらが相乗効果をもたらし、
出版されるや一大ベストセラ－となった。
～【肉体の悪魔】は、〈ラディゲ〉が16歳から18歳までの間に書き上げたとは
ただただ、私には驚きと、衝撃的であった。人を深く愛することはいかに難しく
人を深く傷つけるものかと改めて思った。～
《あらすじ》
【肉体の悪魔】は、〈ラディゲ〉〈僕〉の体験の話で、美貌の人妻（マルト）との、
禁断の恋（不倫）におちてしまう物語である。
フランス第一次世界大戦の真っ只中から、終戦にかけて〈僕〉が、
15歳のときに、年上の美貌の人妻〈マルト・19歳〉との出会いが舞台になっている。
〈僕〉たち一家は、両親の知り合いのグランジエ一家と、オルメソンに散策に出かけ
彼らの娘〈マルト〉と〈僕〉が出会ったのは、その時であった。
新婚の〈マルト〉 の 夫〈ジャック〉は、従軍していて家には戻ってこなかった。
〈僕〉と〈マルト〉はお互いに惹かれあって、愛を深めていった。
<僕>は<マルト>を、愛しすぎているため学校を無断欠席で、放校処分になってしまった。
<僕>の生活態度に父親はどんなことをしようが、<僕>を信じてくれていた。
毎晩<僕 >は <マルト>の家に忍び込み、一夜を共にし、
初めて肉体の快楽を味わいどんどん深みにはまっていってしまう。
<僕> と <マルト>の関係は、次第にスキﾔンダルとなって<マルト>の妊娠が分かる。
そこで<僕>は卑怯にも、従軍していた<マルト> の夫 <ジャック>が戦地で病気になり、
静養中の<ジャック>に会いにいき交わるように<マルト>に頼んだ。
<僕>は今回ほど辛いものはなかった。
<僕>の<マルト>への愛は以前にも増して深くなっていった。
それまで、息子の不品行をほんの火遊び程度だと、父親は考えていたが、
<マルト>からの手紙で、おなかの子が、息子だと分かり
父親は躍起になって二人を引き裂こうとした。
予定日よりも二か月早く<マルト>は男の子を早産した。
<マルト>は大胆にも息子に<僕>の名前を付けた。
<マルト>からの手紙で、子供は保育器の厄介になっていること、彼女自身も死にかけたことを知り
<僕>は、子供が出来た喜びと、幸福感に満たされた。
一方、真実を知ったグランジエ家の人々は、
医者と共謀して生まれた子が、<ジャック>の子供であると信じ込ませた。
ある、日の正午、弟たちが、<マルト>が死んだと叫びながら学校から帰って来た。
<僕>は、体がこわばり、冷たくなり、石になっていくような気がした。
<マルト>が死んだという確実な事実は<僕>の恋愛を、
それが待っているあらゆる恐ろしさと一諸に、〈僕〉の目には、はっきりと見せた。
それから、数か月後、たった一度だけ〈ジヤック〉を見かけた。
〈僕〉の父が持つ〈マルト〉の描いた水彩画を見に来た。
彼が、僕の父に「妻は、あの子の名前を呼びながら死んで行きました。」
物語の最後は、
マルトが僕の名前を呼びながら死んで行ったことも、僕の子供が合法的に
立派な生活を、していけるであろうことも、今わかったではないか。
～【肉体の悪魔】を、16歳から18歳のあいだに書かれたとは、
私には想像を超えるものがある。
《愛》とは簡単に使うものではないこと、
《愛》とは重みがかかっている言葉だということ。
ラディゲが早熟というより、子どもであって大人であること。
青春期の恋愛小説とは違い美学的な部分まで到達していると、思う。～
『ラディゲ』紹介
レイモン・ラディゲは、パリ近郊のサン・モ－ルに生まれる。
神堂の誉れ高ったが、やがて学業そっちのけで読書に耽溺し、
14歳の頃から各試作を始め、各雑誌に投稿する。
15歳のとき、ジャン・コク－トと知り合い、ラティゲの才能にほれ込む。
1923年【肉体の悪魔】が出版される。
そのセンセ－ショナル内容とコク－トの後ろ盾のおかげで、レディゲは、
今なお、フランス心理小説の名作として評価の高い
『ドルジエル伯の舞踏会』の執筆を始める。
だが、1923年冬、突然体調を崩し、腸チフスと診断され入院。
《しかし、治療のかいなく、わずか20年の生涯を閉じた。》
「三日後に僕は神の兵隊に銃殺される。」これが最期の言葉だった。
病床にあって、なお、遺作となった『ドルジエル伯の舞踏会』の校正を続けた。
同作品は、ラディゲの死後、1924年に出版された。
