(至高の仕事人ぶり!)

 

「渡くんの××の崩壊寸前」には多くの魅力的なキャラクター達が登場します。

主人公である渡直人とその妹である渡鈴白、館花紗月や石原紫といったヒロイン達、そして渡多摩代さん・徳井・梅澤真輝奈に石原美桜さんといった脇を固める人物等々、それらの登場人物は個性や表情などがリアリティある筆致で描かれており、それ故に物語はえも言われぬ迫力や臨場感を醸し出しているのでしょう。

そして、作品中には「名前付き」の主要キャラクター以外にも多くのモブキャラ達が登場しています。

渡直人の同級生やバイト先の方々、或いは館花紗月の義兄である直純を慕う後輩達であったりと、彼らの存在感や醸し出す賑やかさは、物語の雰囲気を高めることに大きな役割を果たしているのでしょう。


(個性豊かな「モブキャラ」の皆様)

 

そんなモブキャラ達の中にあって、物語の最初期から継続的に登場して主要人物たちの魅力を引き立てるとともに、ストーリーに絶妙な深みや賑わいを与えているのが「お団子ヘアの女の子」なのでしょう。


(お団子ヘアの女の子)

ということで、「前編」に引き続いて「お団子ヘアの女の子」の魅力等について述べさせて頂きます。


1 前編の振り返り

前編においては、「お団子ヘアの女の子」の登場シーンの傾向等について述べさせて頂きました。以下が作中における登場シーンの集計表になります。


(登場シーン集計表)

第7巻を除く全ての巻において登場し、そして全エピソードの1/3である26エピソードにてその姿を見せていることが分かります。

名前こそ無いものの、相当に重要なキャラクターであると言えましょう。

 

2 「お団子ヘアの女の子」の役割

作中における「お団子ヘアの女の子」の役割についてですが、大きく3つが挙げられるものと考えます。

以下、それぞれについて記します。

 

役割その1:石原紫の引き立て役

本作品におけるダブルヒロインの片割れ・石原紫は超絶的な美少女として扱われています。

その顔立ちが可愛らしいことに加え、体付きのグラマラスさについても群を抜いて素晴らしきものであると言えるでしょう。

「お団子ヘアの女の子」は、そんな石原紫と共に描かれることによって、彼女のその魅力をより輝かせる役割を担っていると思われます。


(「引き立て役」として抜群の活躍(3巻第1話))

このシーンは3巻第1話の冒頭のシーンですが、顔立ちや体付き(特に胸!)が並の水準である「お団子ヘアの女の子」の女の子と並ぶことにより、石原紫の可愛らしさやグラマラスさはより一層際立っていると言えるでしょう。

まさしく「仕事人」と言わんばかりの見事な引き立て役なのでしょう。

 

役割その2:石原紫に係るエピソードに深みや説得力を与える

「お団子ヘアの女の子」は、石原紫とは同じ中学校の出身であり、二人はその頃から良好な関係性にあります。


(お昼ごはんを共に(3巻3話))

3巻における回想場面では、一緒に昼食を摂りながら恋話に花を咲かせる仲睦まじい様が描かれています。

中学の頃から共に過ごしているが故、「お団子ヘアの女の子」は石原紫の過去の回想場面において相当な頻度で姿を見せています。

そして、それぞれの場面において彼女が示す態度や言動は、その時々の雰囲気を表わすことについて非常に重要な役割を果たしているのでしょう。


(高まる不穏な空気(3巻第3話))

上の場面は中学時代の石原紫が藤岡先輩に言い寄られ、彼の奸計によって交際関係にあることを「既成事実化」されつつある時のものですが、近しい間柄である「お団子ヘアの女の子」までもが藤岡先輩の策に嵌まってしまっている様が描かれているが故に状況の深刻さ、そして石原紫の抱く絶望がより切迫感あるものとして感じられるのでしょう。

 

「お団子ヘアの女の子」の存在が石原紫に係るエピソードに深みを与えるのは過去場面だけではありません。現在の場面でも彼女が示す態度は石原紫の言動を重み付けることに大きな役割を果たしています。


(裏付けられる真摯な想い(10巻第6話))

これは10巻における文化祭の場面ですが、石原紫はカフェの休憩時に渡直人へ告白する気持ちを固め、そして「お団子ヘアの女の子」は、彼女の只ならぬ様に気が付き声を掛けます。一頻りのやり取りの末、石原紫は渡直人のことが好きだと叫び、その場から駆け去ってしまいます。その様を目の当たりにした「お団子ヘアの女の子」は、「でも、あんな紫ちゃん初めてみた」、「完全に恋する乙女じゃん、あれはマジだね」と述懐します。中学生の時から石原紫と共に過ごし、彼女の言動に接してきた「お団子ヘアの女の子」の発言であるが故に、石原紫が抱く想いの真摯さがより強調される場面であると言えましょう。

 

役割その3:学校生活のシーンにて華やぎや賑わいを与える

「お団子ヘアの女の子」が登場するのは中学時代の回想場面も含め、学校生活であることが殆どです。渡直人や石原紫、徳井などが登場する場面の背後などに描かれて、場の賑わいなどの雰囲気を高める役割を果たしてもいるのでしょう。


(メインキャラ達と共に驚く場面(2巻第1話))

これは2巻第1話にて、先生が渡直人の欠席を告げる場面ですが、石原紫や徳井野郎は一様に驚いた表情を示しています。左側の徳井コマにて「お団子ヘアの女の子」も描かれていますが、メインキャラ達と同様に彼女も驚いたような仕草を見せています。クラスが驚きに包まれた雰囲気であることを巧みに演出していると言えましょう。また、この時の彼女の描かれかたは相応に可愛らしく、華やぎもまた醸していると言えましょう。

 

(修学旅行での「華やぎ」(13巻第1話))

これは修学旅行での一幕です。「お団子ヘアの女の子」は友人達をホテルのロビーで楽しげに語らいつつ撮った写真を見せ合ったりしています。修学旅行の楽しさや華やぎをしっとりと演出していると言えましょうし、その後に描かれる石原紫の苦悩を際立たせる絶妙な『前振り』でもあるのでしょう。

 

役割その他:徳井の「モテキャラ」の引き立て役

「その他」としているのは、これは物語開始当初において描かれたものであり、巻を重ねるにつれ、その要素は鳴りを潜めてしまったので、このような位置づけとしています。

物語の開始当初、「お団子ヘアの女の子」は徳井の取り巻きとしても描かれています。


(徳井と共に初登場(1巻第1話))

そもそも彼女が作中にて最初に登場した場面が徳井と一緒だったりします。この場面では徳井の袖を引っ張りつつ「ミスド寄って帰ろー!」などと誘いをかけています。


(徳井の意を汲むが如き行動(2巻第4話))

また、2巻第4話にて徳井がクラスメイト達に対して海に行こうと呼び掛けた際には即座に反応し、そして徳井の意を汲むが如く石原紫へ誘いの声を掛けています。徳井に対し、それなりに興味や関心があるが故に即座に反応しているのでしょうし、そして蛇のように狡猾な徳井としても「お団子ヘアの女の子」が石原紫に対して一緒に行くよう働き掛けることを期待していたのでしょう。

徳井の「モテキャラ」、はたまた彼のコミュニケーション能力を引き立てる役割についても物語当初は担っていたと思われます。

 

3 「お団子ヘアの女の子」のキャラクター性

この「お団子ヘアの女の子」ですが、無造作に登場しているように見えつつも、その登場場面については繊細に考慮されているような節もまた見受けられます。

 

(何故か姿を見せない「お団子ヘアの女の子」(11巻第1話))

11巻第1話にて石原紫は渡直人へと告白するものの、それを断られてしまいます。その様子を見守る面々の中に「お団子ヘアの女の子」は描かれていません。

上述の場面にて描かれている二人の女の子は、10巻のカフェの場面にて「お団子ヘアの女の子」と共に石原紫と一緒に居た面々です。流れからして「お団子ヘアの女の子」がこの場に居てもおかしくない、むしろ居ないほうが不自然だと思われますが、何故か彼女は姿を現わしません。そして、この後に描かれる渡直人が学校内にて悪評を立てられて孤立する場面においても「お団子ヘアの女の子」は全く姿を見せないのです。

そんな彼女のキャラクターを如実に物語っているのは3巻の冒頭の場面なのでしょう。



(友達を宥める(3巻第1話))

皆で連れ立って海に来たは良いものの、他者と全く関わろうとしない館花紗月に対して女子達は文句を述べています。けれども「お団子ヘアの女の子」は、その話題に加わるようなことはせず、「まあまあ、仲良くしよっ」と女子達に対して宥めるような言葉を掛けています。

 

この二つが代表例ではありますが、作品全般を通じて「お団子ヘアの女の子」が、他者を悪し様に言う場面は見受けられません。彼女に関しては注意深く、そのような場面に描かれていないような印象を受けます。前述の11巻の例にしても、学校生活の賑わいを演出するという「お団子ヘアの女の子」の「主戦場」であるにも係わらず彼女が描かれていないことを見るに、11巻における一連の展開は彼女のキャラクター性にそぐわないということだったのでしょう。

 

藤岡先輩の奸計に惑わされてしまう軽躁な面(とは言いつつも、「お団子ヘアの女の子」のみならず徳井を除くクラスメイトのほぼ全員が藤岡先輩に騙されていた状況な訳であり、彼女の反応は平均的であるとも言えますが・・・)などありながらも、石原紫にしっとりと寄り添い、そして他者を悪し様に言うことなど無い故に暖かな雰囲気も醸し出すといった極めて重要なキャラクターであると言えましょう。

 

4 その他

1巻第1話の渡直人と語らう場面にて、徳井の口から「真尋」なる名前が発せられています。

(「真尋」(1巻第1話))

名前こそ語られたものの、結局のところ作中に「真尋」なる人物は登場しませんでした。その前後にて「お団子ヘアの女の子」は徳井と関わる形で頻繁に登場することから、「真尋」が「お団子ヘアの女の子」の名前である可能性は少なからず存在するかと思います。

「渡くんの××が崩壊寸前」は講談社『月間ヤングマガジン』に掲載されていますが、元々は角川書店『少年エース』にて掲載が始まった作品でした。実際、「角川版第1巻」なるものがこの世には存在します。

(参考:角川版第1巻)

第2巻のエピソード掲載中に『少年エース』から『月間ヤングマガジン』へと転籍したのですが、その際に本作品の設定は一部変更になったとのことです。

「お団子ヘアの女の子」は、元々の設定においてはちゃんと名前が出てストーリーにも絡んでくる予定だったので、その元々の設定の「残滓」が「真尋」なのだろうと思われます。

 

なお、講談社版「渡くんの××が崩壊寸前」は、ストーリー自体の変更は無いものの、実は大規模な修正が為されています。

第1巻変更箇所まとめ


このような修正を経た後であっても「真尋」という名前は何故か残り続けています。ストーリーに係わりの無い、ともすれば一種の戸惑いを抱かせてしまう「真尋」という名前がさり気なく残り続けていること。

そこに「お団子ヘアの女の子」に対する作者の密やかな想いがあるんだろうなと思うことは邪推に過ぎないのでしょう。


しかし、何かと考えさせられてしまいます。

 

 今回は以上で終わらさせて頂きます。

最後まで読んで下さりありがとうございました。