今回は、1巻第5話終盤から2巻第1話序盤にかけての館花紗月と渡直人との関係性について考察します。


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そもそも「渡くんの××が崩壊寸前」って何?って方へ

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エピソード概要

館花紗月から傘を借りて帰宅した渡直人は、渡鈴白の100点のテストを見つけ、また、帰宅した鈴白からクラスメイトを家まで送ってあげた等の話を聞き、逃げ出すように家を出て行ってしまう。そして、鈴白の成長を素直に喜べない自分自身に、そして鈴白に必要とされることを必要としている自分に気付けかけてしまい狼狽え、やばい、何かダメだ、これ以上は」と心の中で呟く。

(価値観の崩壊からの逃避)

そんな不安定な気持ちでいたところ、雨に濡れながら帰宅している館花紗月と遭遇してしまう。傘あるって言ってなかった?的に問いかける渡直人に対し、館花紗月はバツの悪そうな表情となり、無言で背を向け立ち去ろうとする。渡直人は館花紗月の腕を掴み、「待てって!」と言ったところ、彼女は恥ずかしそうに「勘違いだった、傘」と答える。

(優しい嘘)

渡直人は落ち込んだような表情となり、「なんで、なんで皆オレにウソつくんだよ。そんなん全然嬉しくないしオレ1人でバカみたいだろ」と言い、そして、渡鈴白との関係をこわすのが怖くて変化や成長を拒否していたのは自分自身だと気付いてしまう。

(気付き)

館花紗月は驚いたような表情となり、「直くん?」と呼びかけながら彼の頰に手を差し伸べ、そして「直くん、鈴ちんとケンカした?」と問いかける。渡直人は「なんで!?」と驚いたように答える。館花紗月は「直くんがそんな表情するの鈴ちん関係以外ないでしょ?」と答える。

(事情聴取)

渡直人は生気のない表情で「ケンカはしてないけどと言い、そして館花紗月が濡れそぼっているのに気付き、自分の上着を脱ぎ彼女に着せる。館花紗月は「直くん、やっさしードキドキと喜ぶ。渡直人は照れながら「~~っ、家どこだよ?」と館花紗月に尋ねる。館花紗月はゆらゆらしながら「送ってくれるの?」と嬉しそうに聞き、渡直人は「仕方なしにだよ、半分は俺のせいみたいなとこあるし」と答える。

渡直人は館花紗月を家まで送って行ったが、彼女の住まいはボロボロのアパートであり、ドアノブすら壊れてしまっていた。渡直人は「親とか心配じゃないのか?」などと考えてしまう。

館花紗月は部屋に入り、ドアを閉じかけながら、「それじゃ。直くんも早く帰って温まらないと風邪ひいちゃうよ。」とあっさり別れを告げる。渡直人はビックリし「」と声をあげてしまう。そして、何かもの言いたげな感じになる。館花紗月は「…… 帰んないの?」と問いかけるが、渡直人は立ち去ろうとせず、俯いて思いつめたような表情で「………」と黙りこくる。

(甘えられる存在)

館花紗月は渡直人の腕を掴んで部屋に引き入れてドアを閉め、そして「直くんがここにいたかったらいてもいいよ。」と渡直人に言う。

渡鈴白を一人にしてるから帰る、などと言う渡直人に対して館花紗月は「鈴ちんて今10歳だよね?一人でお留守番くらいできるよ。」と言い、渡直人は「う」と言葉に詰まる。そして、館花紗月は渡直人を見つめながら、「たまには直くんの気持ちを優先したっていいんじゃない?」と言う。渡直人は気持ち的に追い詰められ、「やめろ それ以上言うな」と思う。

館花紗月は「それとも、直くんが鈴ちんのこと優先してないと不安なのかな?」と問いかける。渡直人は目の色が変わり「!」となり、そして館花紗月に掴みかかり、「分かったようなこと言うな!!」と怒鳴りつける。館花紗月は怒ったような、抗議するような表情となり、そして渡直人は愕然とした表情となる。渡直人は館花紗月を離し、「おまえにオレらのことなんて分かるわけねーし」と言い、部屋を出て行く。

(恐慌、抗議、愕然、逃亡)

一人部屋に残された館花紗月は部屋に倒れ込み、「わかるよ。この6年間、ずーっと直くんと一緒だったもん。」と言い、渡直人が着せた上着を愛おしむようにし、顔を赤らめ、「直くん」(黒塗り台詞)と連呼する。

渡直人は館花紗月の言葉を反芻しながら鈴白との関係について考える。鈴白といるのは楽だし唯一の兄妹だからお互い否定できない、鈴白との関係を盾に他者との関わりを避けてはいたけれども、それでうまくやってきたんだ、と考える。しかし、あくまでそれは今までだった、という事にも気付き、愕然としてしまう。館花紗月の「たまには直くんの気持ちを優先したって」との言葉を思い出し、またも愕然とし、目に光の無い表情となり、鈴白より優先したいものを考えたところ、石原紫の笑顔が脳裏に浮かぶ。そして思う。「もう紗月ん時みたいな勘違いはウンザリなのに。気付きたくなかった。全部紗月のせいだ。」

お互いの意図・目的等

館花紗月

このエピソードにおいて、館花紗月は態度の不安定な渡直人に振り回されっ放しでした。雨に濡れながら帰る途中で遭遇した渡直人は見る影もなく落ち込んでいました。館花紗月もそんな彼の態度に驚いたのでしょう、珍しく呆気に取られたような表情を浮かべています。渡鈴白とケンカしたの?と手を差し伸べたら、渡直人はケンカはしてないけどでも、と鈴白との間でトラブルがあったことを認めるような発言をします。そして、館花紗月がずぶ濡れなことにはっと気付き、彼の上着をかけてくれました。作中において、渡直人が初めて館花紗月に親切に振る舞ったシーンでした。思わぬ親切に館花紗月としては非常に嬉しかったのでしょう。「やっさしードキドキという茶化すような言い振りには、大きな喜び、そしてそれを素直に表すことのできない彼女の不器用さが伺えます。部屋にも送って貰えて嬉しそうです。

(初めての親切、そしてどこかぎこちない喜び)

しかし、部屋に着いたら何故かあっさりと別れを告げようとします。帰宅の道中、ずっと雨に打たれていたのですから寒かったのでしょうし、濡れそぼった体も心地よくなかったのでしょう。しかし、渡直人は「」なんて叫びますし、帰んないの?と聞いてもモジモジしてます。

この後、館花紗月は渡直人を部屋に引き込みますが、鈴白とトラブルがあったであろう渡直人に対し、何を考えてそうしたか?には以下の2つの可能性があるかと思われます。

渡直人は一時的に居場所を失ってしまい、物理的な寄る辺を求めていたと思ったから。

心理的に追い詰められた渡直人は、館花紗月に救いを求めていたと思ったから。

この後、館花紗月の口から具体的な提案がなかったことから断言はできませんが、②の可能性が高いのかな?と思います。なので部屋に引き入れ、鈴白のことを言い訳にせず、辛いことがあるなら館花紗月に打ち明けるなりして彼女との関係に救いを求めれば?という意味の提案をしたのではないでしょうか。そして、何もかも見抜いたような館花紗月の態度、そして発言は、渡直人が鈴白との関係に依存してしまっていることを普段から見抜いている故なのでしょう。

(求めたのは救い、突き付けられたのは鏡)

その後、「それとも、直くんが鈴ちんのこと優先してないと不安なのかな?」という言葉を発したことにより、渡直人を決定的に追い詰めてしまい、掴み掛かられた上、怒鳴られてしまいます。館花紗月も流石にこれには反感を抱いてしまったのでしょう。

そして、渡直人が去った後、館花紗月としても色んな意味で疲労してしまったのでしょう。落ち込みもしたのでしょうし、傷つきもしたのでしょう。部屋での最後のシーンは彼の残してくれた優しさの残り香で傷ついた自分を慰めている、そんな印象を受けます。

(嵐は去りて)

館花紗月としては、この時は情緒的に不安定になっていた渡直人に振り回され、彼女なりに差し出した優しさも、その時の彼の状況からしたら不用意な言葉によって撥ね付けられてしまい、怒鳴りつけられもしてしまい、結果的に傷ついただけだったのでしょう。

渡直人

このエピソードにおいて、渡直人の態度は極めて不安定です。鈴白との関係に疑義を抱いてしまうという、彼にとっては重大な自我の危機だったのでしょう。なんで皆ウソをつくんだ?というエピソード序盤の台詞は、渡鈴白も館花紗月もウソをついてまで彼を傷つけないように振る舞っている、ということに追い詰められた彼の感情を表しているような印象を受けます。

館花紗月からの質問に対しても、素直に答えてしまっています。雨に濡れた館花紗月に自分の上着を着せ、そして家に送っていくと言った時は悔しそうな口調であり、片や喜ぶ彼女を目の当たりにし真っ赤に照れています。渡直人としては館花紗月に親切に振る舞いたくはないのでしょう。館花紗月に親切に振る舞うこと、そして彼女の喜ぶ様を目にすることは、彼が目を背けようとしている館花紗月への秘められた好意を意識しかねないのでしょうから(関連考察:2人が結ばれない理由 )。かといって館花紗月からつれない対応をされたら困ってしまう、というのも彼の館花紗月への複雑な感情の現れなのでしょう。このエピソードのみならず、館花紗月が彼に興味を示さない素ぶりをすると動揺してしまうシーンが作中ではしばしば見受けられます。渡直人としては、館花紗月には自分に興味を持って欲しいと内心では強く思っているのでしょう。特に、このエピソードにおいて、渡直人はある意味自我の危機に瀕していました。いつものように鬱陶しく絡んで欲しかったのでしょう。扉の前で何か言いたげに留まっていたのは、館花紗月に「ケンカはしてないけどの続きを聞いて貰いたかったのではないでしょうか。しかし、結果的に館花紗月の口から出た言葉は、おそらくですが、渡直人が「やばい、何かダメだ、これ以上は」と考えるのを止めた先のこと、彼が考えることから逃げてしまったことだったのでしょう。一番言われたくない言葉を聞いてしまったからこそ館花紗月に掴み掛かかり、そして怒鳴りつけるという動揺した態度を取ってしまったのではないでしょうか。

そして、渡直人は館花紗月の部屋を出、道中一人で館花紗月の言葉を反芻しながら考え、石原紫への想いに考えが至り、最後に「全部、紗月のせいだ」と心の中で呟きます。

全て彼女のせいなのでしょう。渡直人に心の傷を負わせたのも、そして彼を変化に追いやり成長を促すのも、全て館花紗月です。

(気付きたくなかったもの、気付かせた人)

関係性の変化に関する考察

このエピソードを通じて2人の関係が変化することはありませんでした。館花紗月は情緒不安定な渡直人に振り回されるばかりでしたし、渡直人は鈴白との共依存的な関係に疑義を抱くという自我の危機に瀕しており、館花紗月との関係に思いを巡らせる余裕はありませんでした。

ただ、困った時には館花紗月に頼ってしまうという態度、そして館花紗月から素っ気ない対応をされると狼狽えてしまう様を彼女に見せたことは、少なくとも嫌われてはいない、という認識を館花紗月に抱かせたのかもしれません。

そして、このエピソードで示された重要なことは、渡直人の変化の過程でしょう。渡直人は一度、鈴白との関係性に疑念を抱きましたが、やばい、何かダメだ、これ以上は」と考えることから逃げてしまいました。そして、館花紗月が発した「それとも、直くんが鈴ちんのこと優先してないと不安なのかな?」という台詞は、まさに彼が考えることを拒否した先の言葉だったと思われます。

渡直人をよく見ていて、そして彼をよく理解している館花紗月だからこそ発することのできた言葉だったのでしょう。

結果、彼は鈴白との共依存的な人間関係からの脱却へと第一歩を踏み出しました。


館花紗月は、渡直人に現実を突きつけ、変化へと追いやり、そして成長を促す存在なのでしょう。

そんな彼女の行動の根底には、渡直人への深い理解があるのでしょう。


最後まで読んで頂きありがとうございました。