今回は石原紫への態度について、その1からその8の考察を踏まえ、渡直人の石原紫への態度、そして関係について総括したいと思います。

 

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渡直人の石原紫との関係における「謎」

最初に、これまで(その1~その8)の総括といった意味合いも含め、渡直人と石原紫との関係における渡直人側の主要な「謎」について整理し、考察したいと思います。今までの投稿と重複する記述もありますが、整理ということでご理解下さい。

2人の関係性における渡直人側の主要な「謎」としては、以下のものが挙げられるかと思います。

①石原紫に好意を抱いた理由

②石原紫と仲良くなりたいと思った理由

③石原紫からの告白を一度断った理由

④中断した理由

⑤石原紫と交際している理由

以上、6項目について考察していきます。

①石原紫に好意を抱いた理由

渡直人は石原紫に対して1巻第1話の時点で好意を抱いています。好意を抱くに至った具体的な理由は作中で描かれていないことから、おそらく他の同級生たちと大して変わらない理由なのかなと思われます。石原紫がアイドル並みに圧倒的に可愛らしく、性格などの要素においても非の打ち所は何一つ無く、そして美化委員として接するなどして彼女の優しさに接したため好意を抱いたのでははないのかと思われます。

(好意のはじまり)

 なお、好意の種類としては、対等の相手というよりも、手の届かない憧れの人、といった類のもののようです。

②石原紫と仲良くなりたいと思った理由

これも①と同様、渡直人の個別的な必然性などはなく、皆が憧れるクラスのマドンナとできればお近付きになりたい、といったごく一般的な理由だと思われます。仲良くなれたらラッキーといった感じだったのではないでしょうか。

なお、渡直人には石原紫と何が何でも仲良くなりたいといった気持ちは希薄なように感じられます。3巻での海への旅行においても、徳井の介入がなければ、結局は館花紗月と一緒に海で泳いでいたでしょうし、関係を深めるには絶好の機会である石原紫の迎えにも館花紗月と一緒に行ってしまい、石原紫と仲良くなるどころではなかったと思われます。4巻第4話においても、渡直人は館花紗月に「石原さんのことも最初は見ているだけで充分で」と言っており、特に個別的な必然性は無かったものと思われます。

(述懐)

仲良くなったのは、石原紫が好意的な態度を示してきたので、何とかなるんじゃないか?と思い、彼がそれを受け入れる態度を示したためと思われます。彼の方から能動的に行動した結果として仲良くなったと言うよりも、石原紫が彼に好意を抱きアプローチしてきたこと、そして徳井が全面的にバックアップしたことが大きな要因だと思われます。

③石原紫からの告白を一度断った理由

大きく以下の4つの理由があるのかなと考えます。

その1:自信の欠如

石原紫は渡直人にとって、「高嶺の花」的な存在であり、引け目を感じていることは彼の発言において時折示されています。クラスのアイドル的な存在であり、誰からも人気がある石原紫と、モテないと自覚している渡直人自身とでは釣り合わないとの思いがあるのでしょう。また、彼が今まで現実、そして将来のことを直視し向き合ってこなかったことにも引け目を感じてしまっていたのでしょう。石原紫との「立場」の相違、そして彼自身の自信の欠如、これらにより対等の相手として交際していく自信がなかったのでしょう。

その2:他の問題への対応

渡直人は、館花紗月に話を聞いてもらってから、石原紫への対応のみならず、自分が対応していかなければならない問題と向き合っていかなくては、と思ったのでしょう。バイトして住居を借りる資金を貯め、そして高校を卒業してどうするかなど、将来を見据えて行動していかなくてはと思い、それらへの対応を優先したいとの考えもあったのでしょう。

(成長)

その3:好意を失うことへの恐れ

渡直人は石原紫から告白されるまで、彼女と交際することを全く想定していませんでした。そのため、交際を始めても恋人としてどう振る舞っていいのか全く分からず、うまくやっていく自信もなく、逆に石原紫を失望させ好意を失ってしまうことを恐れたのではないでしょうか

その4:必然性の欠如

これまでの渡直人の行動には、石原紫との関係を深めて行きたいとの欲求が希薄であるように感じられてしまいます。「ごめん」と言った後の会話の流れでも、待って貰えないのは残念だけどそれもやむを得ないよな、といった執着のない態度を示しています。海での行動についても、何が何でも関係を深めるといった気概もあまり感じられませんでした。海への旅行から帰ってきてからも、海での出来事を踏まえて石原紫との関係を深めることよりも、館花紗月との関係修復の方に気を取られていました。

(優先順位とは?)

石原紫への好意が抑えきれないとか、何が何でも交際したいといった気迫などは彼の態度からは感じられません。石原紫に好意を抱いていることは確かだし、仲良くなりたいとも思っているのでしょう。告白された時は交際するのもいいなと思ってもいるのでしょう。しかし、それが渡直人の中で必然性を有しているか?については疑問を抱いてしまいます。少なくとも、館花紗月のことを心配する時のような必死さ、無我夢中さ、衝動性は感じられません。

(渡直人の「必死」)

あと、根拠もなく私の感想めいた見解になってしまいますが、渡直人には他者の真剣な思いを受け止めることから逃げてしまう傾向があるような気がします。そもそも彼は真の想い人である館花紗月に対する自分自身の想いを封じており、また、彼女の想いも受け取らないようにしています。館花紗月の2度のキスに込めた好意を理解しないのですから、相当に強固な決意、思い込みなのでしょう。そして、5巻第6話においては石原紫の誘いを断りましたが、これも彼女の気持ちを受け止めることに怯えたからではないかと思います。自分の気持ちを認識すること、他人の想いをしっかりと受け止めることから逃げてしまう傾向が渡直人にあり、このことが一度は断った理由の一つではないか?と感じます。

 

④中断した理由

石原紫との関係を決定的に深める契機が5巻第6話にありましたが、渡直人は中断してしまいました。理由については見解が分かれるかと思いますが、私は「ビビった」ことが原因だと考えています。いよいよという時に石原紫は渡直人と握り合った手を震わせながら微笑み、「渡くんとなら大丈夫」と、あたかも自分に言い聞かせせるように言いました。それを聞いた渡直人は、瞳が真っ白となりました。そして、建前だと自覚しながら、「こういうことは焦ってすることじゃないよ」と言い、落胆した石原紫は去って行きました。

(逃避、言訳、建前)

そして、その後、「これでいい」と自分に正論を言い聞かせています。石原紫の「理想」、そして「これでいい」に続く正論が建前だとすると、本当の理由はそれ以外でしかなく、だとすると石原紫の真剣な態度に「ビビった」ってことかなと思います。

 

⑤何故、石原紫と交際しているのか?

本ブログを読まれている方としては、渡直人は館花紗月にどうしようもないほど好意を抱いているのに、何故、石原紫と交際し、そして何故、身を焦がすような悲しみや苦しみに必死に耐えているであろう館花紗月を一顧だにしないのか?と疑問を抱かれるかと思います。

理由としては2つあると考えます。

理由その1:館花紗月への好意を封じ、また、館花紗月の好意を感じないようにしているから

館花紗月への好意的な言動 後編」でも述べさせて頂いたように、渡直人は6年前に館花紗月が彼の前から去ってしまった時の悲しみをもう二度と味わいたくないために、彼女への好意を無理矢理心の奥底に封じ込め、意識しないようにしているものと思われます。

(逃避の原点)

4巻第4話などでのやり取りを通じて朧げながら好意の存在を認識するようにはなりましたが、それですら「幼なじみ」という感情に置き換えようています。片や石原紫への好意については明確に認識しており、海への旅行などを通じて徐々に大きくなりつつありました。そして、彼女からも交際を強引に求められたため、拒否する理由もなく交際に至ったものと思われます。また、交際を始めたら、可愛らしく優しい石原紫にほだされて好意も膨らみ、そして、憧れの人と交際しているんだという一種の達成感や高揚感もあり、幸せに包まれている状態なのでしょう。館花紗月への好意を朧げながら感じていたとしても、石原紫との交際の楽しさや好意のほうが遥かに大きい状態なのでしょう。

そして、館花紗月の好意も感じないようにしているため、例え彼女の悲しみを目にしたとしても、それが渡直人への好意故ということも理解することはできないのでしょう。5巻第5話における、石原紫の「館花さんが自分の気持ちに気付く前に」という台詞に驚いたのも、今の彼にとって館花紗月の好意とは、青天の霹靂のようなものであるからでしょう。

理由その2:石原紫と一種の共依存的な関係にあるため

これは若干飛躍した話でもありますし、また、読まれる方によっては不快に思われるかもしれませんので、後にアメンバー限定投稿の中で説明させて頂きます。申し訳ありません。

 

渡直人の石原紫への態度、そして2人の関係性について

最後に総括的なものとして、渡直人の石原紫への態度、そして2人の関係性について述べさせて頂きます。

渡直人の石原紫への態度は、作中を通じて常に好意的です。巻を重ねるにつれ好意は大きくなり、4巻では交際に至り、そして5巻第6話においては中断こそしましたが行為寸前まで至りました。一見極めて順調に、そして、ほぼ問題なく関係は進展しています。渡直人が石原紫に抱く感情についても負の要素は全く見当たりません。言葉を荒げることも喧嘩をすることもありません。しかしながら、以下の2つの特徴が見受けられると思います。

その1:切迫感の欠如

前述のように、2人の関係の進展は順調です。しかしながら、渡直人の石原紫への態度には切迫感が欠如しているように感じられます。石原紫が好意を示さなければ、彼のほうからアプローチすることはなかったでしょうし、海においても徳井の介入がなければ関係は大して進展しなかったでしょう。

(放っておけばいつの間にか一緒にいる2人)

海から帰ってきた時点においても石原紫と交際するとか考えていませんでしたし、告白も一度は断っています。そして、5巻第6話においても、関係を決定的に深める機会を断ってしまっています。石原紫への態度はあくまで理性的な範疇にとどまっており、関係を深化させたいなどといった切迫感はありません。館花紗月のことを心配する時のような、必死さや無我夢中さ、そして衝動性は感じられません。

その2:石原紫の「理想」への拘り

渡直人は、2巻第3話において石原紫が彼に言った、

「渡くんは純粋で」

「渡くんは誠実で」

「渡くんは優しくて」

「渡くんは清らかで」

「渡くんだけは他の男の子と違うから」

という、石原紫の「理想」に拘る傾向があります。

(「理想」)

6巻第6話においても、就寝前には「いかなる時も石原さんの望む清く正しい男でいなければ」と自分に言い聞かせていますし、そして、中断したことのきっかけも、図書館での「渡くんだけは他の男の子と違うから」という石原紫の言葉を思い出したことでした。しかしながら、石原紫としては、おそらく①~③については、あまり重要視はしていないのでしょう。これを本当に重要視していたのなら、2巻の時点で愛想を尽かしていたかもしれませんが、全くそんな素振りは見せませんでした。そもそもこれらは中学時代、藤岡先輩から結婚相手の理想を聞かれ、少女漫画からの受け売りとして適当に答えたものです。

(「理想」の原点)

また、④、⑤については、あくまで好きになるきっかけてあって、現時点では石原紫はそれを全く求めていません。4巻での動物園デート以降は、むしろ真逆のことを渡直人としようと虎視眈眈と機会を伺っています。もはや石原紫にとってこれらに拘る必要性は無いものと思われますが、渡直人としては拘ってしまっています。

 

渡直人が石原紫に対して好意を抱き、関係を深めたいと望み、そしてその関係に幸せを感じていることは確かです。しかしながら、渡直人と石原紫との態度には大きなギャップがあります。

石原紫への態度について その6で述べたように、石原紫の恋愛における特徴としては、物事を悪い方向に考えがちであったり、とにかく猪突猛進の傾向があったりします。恋愛相手への「理想」もおそらく希薄でありましょう。そもそも自分に興味(特に性的な興味)を抱いた相手を恋愛対象として見ることはありません。

石原紫に対して切迫感を欠き、関係をゆっくり深めていきたいと思い、そしてともすれば相手の気持ちを真剣に受け止めることから回避する傾向がある渡直人に対し、踏みとどまって考えることが出来ず、猪突猛進的に関係を急進的に深めていこうとする石原紫。

つまり、「逃げる男」と「追う女」とでも言えましょう。

 

石原紫を大事にしたいと思い、実のない彼女の「理想」を重んじ、そのために紳士たらんとする渡直人に対し、渡直人の言葉を結局は信じず、館花紗月に対抗意識や嫉妬心、そして焦りを抱き、それ故に深い関係に一気に突き進もうとする石原紫。

つまり、「優しさと建前に拘る男」と「不信と不安に苛まれる女」とでも言えましょう。

 

喧嘩一つなく、一見良好に見える2人の関係の影に、大きなすれ違いが生じつつあるように思えます。

そして、渡直人と石原紫との間には、共依存的な関係の影もちらつきます。深い記述はここでは避けますが、そもそも石原紫が渡直人に好意を抱いた理由は渡直人が彼女に興味を抱かなかったためであり、そして渡直人は、本心では館花紗月のことが好きで好きで仕方ないのに、その想いから目を逸らし続けています。大袈裟な表現をすれば、共犯的な現実逃避の関係と言ったところでしょうか。出発点からしてそもそも歪な関係なのです。

 

表面的は何の問題もない、仲睦まじく初々しいカップルでありながら、水面下ではどうしようもない亀裂が生まれつつあるのでしょう。そして、もしかしたらですが、爛れた共依存的な関係でもある可能性すらあります。

 

渡直人と石原紫との関係は、実は極めて危うく、そして緊張感を孕んだものであるようにも感じます。

 

以上、計9回に分けて投稿した、「石原紫への渡直人への態度」でした。長々と失礼しました。

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

 

よくもまあ、こんな滅茶苦茶な話を表向きは普通のラブコメに見せかけた上でシレッと描けるもんですよ…褒め言葉です。