音を動かす事に書いた事をもう少し突っ込んでみようと思います。
題名の意味は一つの音に含まれる倍音では無く、自然倍音の間をどう動くか?と言う事です。
いわゆるリップスラーと言われているもの。
先ず技術の話しになる前にその根拠となるラッパの歴史から話します。
ラッパは紀元前から戦闘等の合図に使われていました。
合図が主であった頃は低い音のみだけが使われて居たそうです。(下の図の一番目の音列の4倍音迄)
今のトロンボーンの中低音の辺りです。因にトロンボーンは1450年頃にトランペットから派生しています。当時のトランペットは今の約二倍の長さが有りました。マウスピースの内径も今より2~3mm大きくてリムは平でカップの底も鋭角なショルダーを持っていました。ヴァルブ等も有りません。一般にはナチュラルトランペットと呼びます。
歴史や楽曲を調べて行き低音だけ吹かれて居たトランペットの技術が飛躍的に向上したと思われるのはルネッサンスの後期(1450年以降、トロンボーンと分かれた頃)からバロック期(1600~1750)で、その頃の楽器にはヴァルブはおろか孔(穴)も有りませんでした。
どうやって音を動かしていたか?
自然倍音間をコントロールする事でしか音を変える術が無かった。
下の図を見てもらえば判って頂けるのですが、一番上の倍音表の音がハ長調のナチュラルトランペット一本の楽器から出せる音列です。二番目はニ長調の楽器で出せる音列です。一つの楽器で一つの調子しか吹けませんでした。
一番下の音列は現代の楽器。
(Bb, C, D…..各長さの管、どの楽器も全ての楽器のドを楽譜のドに当てはめて下さい)
バロック期の楽器~現代トランペットの祖先の楽器は今より倍の長さであった為音階が吹ける音域が今より1オクターブ低かったのです。(番号は何倍音かを指し25以上も演奏者の技術が高ければ演奏可能です。)
本来、トランペットにとってリップスラーとは特別な技術で無くて音を動かす唯一の方法です。単に隣の音に動く事なのです。(タンギングを使う時も同時にその技術が使われないと音は変化しません~これは現代の楽器でも同じ筈です)現代の楽器はヴァルブシステムを使って半音毎に管の長さを変える事が出来ます。倍音の間の音を管の長さを変える事に因って補っているのです。
さて、実はこのリップスラー~倍音間を動く技術は現代のトランペットで指を使う時にも意識が必要です(指を使わず倍音間を直接動く時は当然必要)。幅の広い(倍音を跨ぐ)跳躍、そして、例えば、下のドからレ、真ん中のソからラ、真ん中のドからレ….. 等次の倍音へ移る時。
これはどういう事いうと、下のドは第2倍音でレは第3倍音から管の長さを変えて下りて来た音だからです。ソは第3倍音でラは第4倍音から管の長さを変えて下りて来た音。判り易く全音で書きましたが半音の変化でも倍音が変わる時にはリップスラーを意識する事が大切でそれが出来る事に因り、より高い音にスムーズにコントロールされながら上がって行く事が出来ます。これは上がると言うより、転がる、ひっくり返る(音がひっくり返った経験は有りませんか?実はそこに大切なヒントが有るのです。)と言った表現が当てはまるかも知れません。
ところで、上に書いた様な当時のマウスピースと楽器で練習して見ると面白い事が判ります。
先ず、シラブルと息のスピードは音高を変える事その物には殆ど役に立ちません。ある所迄は行けますがバッハ等に使われる様な音域に、それにふさわしい音色や表情では到達出来ないのです。これは実際に吹くと良く分ります。ただし、内径が18mm以上の当時の形状のマウスピースで無いとマウスピースが助けてくれるので曖昧になります。また息のスピード等は邪魔にすら成ります。楽譜にある矢印(↓, ↑ )はその音が平均率よりずれる方向を指します。例えば11倍音はファより1/4音ほど高くファにするには音程を下げないとなりませんが、シラブルや息のスピードはそれの妨げに成ります。
では何処を使うか?
歌のテクニックと同じ喉と響きの捉え方。具体的には空間に良く響く声に出して見ると良く判ります。声に出して歌えない人は楽器もうまくコントロールが出来ないのです。誤解の無い様に言いますと、舌の位置も音域に因って変化しますが、それは喉や歌うテクニックによって引き出されるものだと考えて居ます。これが出来ると現代の楽器でのベンディングもそんなに厄介な物では無くなります。ベンディングは唇の強度の為で無く喉の技術を引き出す方法だと考えられます。先程、"ひっくり返る"と言いましたがそこに大きなヒントが有ります。高い音へ行くほど響きが細くなるのはこの技術が上手く使えて無い可能性が有ると思います。上手くひっくり返る事で楽に響きを痩せさせる事無く演奏出来る筈です。出てくる音が全てを教えてくれます。例え指を使ってる時でも倍音を跨ぐ時はこの技術を意識する事で自然に同じ響きで楽に移行出来ます。技術と書きましたが「技術」を「感覚」「感触」と置き換えてもらった方が判り易いかも知れません。
また、古い楽器と今の楽器は違うと言うのはナンセンスだと思います。同じ音の出る仕組みを持った楽器で同じ基本の技術でもっと効率の良いコントロールが出来て、より難易度の高い演奏が出来るのが現代の楽器だと思います。
現代の楽器の名手はナチュラルトランペット名手にもなれるし逆も然りだと思います。
これが私の考え方なのですが皆さんはどう考えられるでしょうか。