映画『貞子』 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 地上波で放送されたのを録画してあった本作。
 タイトルも直球『貞子』。もう説明の必要もないかもだが、あのリング・シリーズ2019年制作の八作目だ。
 観る前にインターネットで事前に評判をチェックしてみたが、これが頗る悪い。僕も僕で今ひとつ気持ちが上がらない。今更リング・シリーズなぁ……という気持ちが、どうしても先立ってしまうのだ。
 しかし監督が『リング2』以来の中田秀夫。基本的に中田秀夫が貞子の哀しみに満ちた恐怖を上手く演出したからこそ今日に繋がっていると思う身には監督に関しては期待ポイントだ。
 という次第でシリーズのマンネリズムに対する期待薄感と監督への期待感の両思いに揺れ動きつつ観始めたが、残念ながら結果は期待薄感に軍配。予想通りというか、さすがに初期のインパクトや新鮮味は感じられなかった。
「SNS時代の新たな恐怖!」
 というキャチフレーズで、実際にヒロインの弟がYouTuberとして物語に絡んだりするものの、肝心の貞子がインターネットを上手く使いこなせていない。ビデオよりどう考えてもインターネットの方が呪いの拡散力も遥かに上のはず。しかし貞子のあの背筋がゾクッとする恐怖は、やはりVHSのきめの荒い画像でないと効果が半減してしまうのだ。時代の進化の速さに貞子の呪いが置いてきぼり喰らっている感を受けた。
 それでも物語そのものは手堅くまとめられていて評判ほどに酷いと感じなかったのも確か。スリリングさには欠けるが、意外に最後まで退屈せず付き合えた。
 面白かったのは第一作『リング』で高校生役で出演していた佐藤仁美が同じ役柄で再々登場を果たしていたところだ。役名は倉橋雅美。『リング2』では貞子に級友(これが十代の頃の竹内結子なのも今となっては感慨深い)を殺されたショックで精神病院に入院していたが、更に二十年の歳月を経て、本作ではようやく退院にまで漕ぎ着けている様子が描かれていて、結構これ切なかった。当時は友達と和気藹々と高校生活をエンジョイしていた倉橋雅美。どこにでもいる無邪気で明るい普通の少女だった彼女が、貞子に出会ったばかりにその後の人生を狂わされたかと思えば不憫この上ない。もしも貞子に関わらず済んでいたら、その後は平凡ながらも真っ当にお天道様の下の幸せを満喫していたろうに……そう思いを馳せれば尚更ね。すっかり忘れ果てていた脇役に過ぎないが、こうして歳月を経て再々登場を果たされると、うんうん、辛かったな、よく頑張って生きてきたな……と思わず同情を寄せたくなる。カウンセラーの彼女と友情を育みたいと夢見たり、今は病棟で先生方と明るく冗談を言い合える関係性が築けていたり、そんな日常を垣間見るにつけ、脇役は脇役なりに過ごしてきた歳月に思いを馳せてしみじみしてしまった。
 倉橋雅美は結局その後、本作の主要人物らに巻き込まれる形で、よりによって恐怖からようやく立ち直れたあの貞子の呪いを受けて死んでしまう。しかし死に至るまでの凡そ二十年の歳月すべてが、彼女にとって生き地獄だったわけではなかった。それが知れたのは本シリーズの一つの慰みに感じた。凡そ二十年ぶりの再々登場を果たした倉橋雅美の存在が本作の良いフックとなり、かつ奥行きを増す効果を与えていた。
 恐怖は薄め。あれだけ怖かった井戸から這い出てくる貞子もお約束めいたものしか感じない。
 緊張感も今ひとつ。本作の重要なポイントとなるはずだった少女の存在も、その特殊能力も含めて上手く物語に融合していない。
 もう一つ付け足すと今回はヒロインを筆頭に主要人物にも魅力が乏しい。
 などなど。ケチつけようと思えば幾らでも突いて出るが、それでもシリーズ物として一貫性は感じられたので、本作単体ではなくシリーズ物としての評価としてギリ合格点を与えたい。
 そもそも僕はジャパニーズ・ホラーに関しては呪怨派。だから本作の出来不出来にもそこまでの執着はないのだ。