映画『ゴジラ-1.0』。 | 春田蘭丸のブログ

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 監督があまり好みではない人だったので幾分迷ったが、世間の評判に誘われて、やはり映画館まで出向いて観ることにした本作。十一月十一日金曜日。宿直明けを利用して慌ただしく決行。
 結果、監督がなぁ……という躊躇いを捨てて観に行って大正解だったと素直に納得させられた。今年は映画館まで出向いて観たのが『シン・仮面ライダー』と本作の二本のみになってしまったが、正直『シン・仮面ライダー』の方が、悪くはないけど映画館まで出向いて高い料金払って観るレベルかと考えると、うーむ……と感想に迷う微妙な出来だったのに対して、本作は映画館まで出向いて2000円払っても十分元は取れたと躊躇なく言い切れる。何かと批判が多かったドラマパートに関しては、登場人物の感情表現を一々台詞に頼りすぎた臭みは僕も若干感じた。しかし批判されているほど苦になるものでもなく、そもそも最近の邦画の風潮って、大概こんなものじゃねーの?……と諦めがつくレベル。特攻帰りの主人公を演じた神木隆之介を筆頭に、近所の頼れるおばちゃんを演じた安藤サクラの、初っ端からいきなり凄みを感じさせた演技も流石。更には佐々木蔵之介や吉岡秀隆といった名優らが、臭みが先立ちそうなドラマを大映ドラマ的わざとらしさに堕さないナチュラルさで上手く演じていた。そういえば「神木隆之介が珍しく演技が下手くそに見える」という感想を観る前にTwitterでちらほら拾ったので、演技が下手な神木隆之介って逆に興味が湧くな……と、その辺も意識して観た。しかし下手と感じた人は一体どこを見てそう思ったのか僕にはまったく理解出来なかった。同棲相手を浜辺美波が演じているので、どうしてもそこに昨シーズンの朝ドラの万太郎と寿栄ちゃんの面影が若干重なるのは御愛嬌。寧ろ寿栄ちゃん相手に万太郎の影をここまで払拭できた流石の力量を素直に褒めたい。万太郎と寿栄ちゃん以上に切ない二人の思いやりも又、素直に心ほだされた。
 特撮に関しては文句なし。その評判に期待値のハードルかなり高めに観始めたが、大戸島にゴジラが夜襲を仕掛ける冒頭シーンから、いきなり度肝を抜かれる。この時点ではまだ核爆弾を受けて覚醒する前の恐竜ゴジラ。しかし十分この時点で期待値のハードルを軽々クリアされてしまったのだ。その後は完全体と化したゴジラの怖さが更にビンビン伝わってくる。海洋シーンの特撮の凄さばかり評判として聞こえてきていたが、実際に観てみればゴジラが日本に上陸後のそれも見事に尽きる。縦横無尽に暴れまくり銀座の街を破壊し尽くすゴジラの迫力に息を呑むばかりだった。
 冒頭の大戸島では『ジュラシック・パーク』を。
 海洋でのゴジラとの闘いには『ジョーズ』を。
 更に電車を浜辺美波ごとゴジラが咥えあげるシーンでの一連には『キングコング』を。
 などなど。往年の怪獣映画やパニック映画のオマージュ的なものが散見されたのも観る趣向を増した。自宅で観た作品も含めて今年僕が観た映画のなかでベストワンをあげるなら躊躇なく本作。特攻を美化する方向で決着つけなかったのも良かった。もしも特攻を美化されていたら感想も又違ったものになっていたろう。国内の空気も急速にきな臭くなっている昨今を踏まえて尚更それを強く思う。
 さて最後に蛇足となるが、『シン・ゴジラ』も映画館で観た身としてはどうしても比較したい欲求が湧く。
 素朴に真っ先に湧く感想は「どちらも好き」というもの。
 何れも素晴らしくて内容が別物としか言いようがない。それを踏まえて敢えて順列つけるならばドラマパートは『シン・ゴジラ』、特撮に関しては本作に軍パイを上げたい。
 これは本作を観る前から漠然と思っていたが、正直『シン・ゴジラ』の特撮シーンで本気で度肝抜かれたのはクラスター爆弾受けたゴジラが大友克洋のアキラ覚醒の如く東京を壊滅に追い込んだシーンだけのような気がしないでもない。あのシーンのみで特撮も凄かった印象を覚えてしまうが、ぶっちゃけ他の特撮はそこまで記憶に残っていないのだ。質量共に特撮のクオリティは圧倒的に本作だろう。
 ちなみに本作は現在アメリカでヒット中という。『シン・ゴジラ』は国内ではヒットしたのに今ひとつ国外では受けが悪かったのは特撮のクオリティもさることながら、ドラマパートの張り詰めたスピード感が翻訳では伝わり辛かったのかもしれない。比べて本作は情に訴えかける分、ドラマパートも分かり易い。この分かり易さでこの特撮クオリティならアメリカでのヒットも納得だ。
 というか最近のハリウッドの特撮映画は凄いは凄いけれどパターン化され過ぎて些か食傷気味。対して本作はハリウッドの特撮のテンプレ感が希薄なところも新鮮だった。
 何れにせよ二十一世紀に入った今更、ゴジラを扱った、しかも国内で制作された傑作を立て続けに観られるなんて、こういう面でも人生これ何が起こるか分からないものだ。