木には木で
それぞれ個性を備えているように、
君には君の魅力があると
せめて気休めを君に伝えたかった、
君が自死する前に。
戸外に只立つのみの
無能無才に相応しい仕事に就いて、
目の前に立つ木の風の揺らぎに君を思う。
鬱蒼と黒みがちな葉を繁らせる木に
生前の君の鬱屈に思いを馳せる。
厄介なのは肉体。
惨めなるは心。
鈍重な身から解放されて、
あまた世界中の木に恵みを与える水に還った、
もう君は気に病むこともないのだろう。
痛みからも苦しみからも解放されて
既に鬱蒼と病む心も持たない君。
希死念慮を今なお心に持て余して、
希望の木ひとつ植えられなかった僕は
君の選択を時に羨みたくもなるが……。
だけど気の利いたジョーク一つさえ
肉体と共に心を失った君は今は言えない。
例え希望が根を生やさずとも
好奇心を取っ掛かりに新たに生き直す術も
心なき君には知ることも出来ない。
木にとどまらず
森羅万象あれこれの個性を日々に観察する
個人記録のような営みが慰みとなることも、
君の心の根が渇き切るその前に
差しつ差されつ君に伝える夜が欲しかった。