木を見て君を思う。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 木には木で   
 それぞれ個性を備えているように、
 君には君の魅力があると
 せめて気休めを君に伝えたかった、
 君が自死する前に。

 戸外に只立つのみの
 無能無才に相応しい仕事に就いて、
 目の前に立つ木の風の揺らぎに君を思う。
 鬱蒼と黒みがちな葉を繁らせる木に
 生前の君の鬱屈に思いを馳せる。

 厄介なのは肉体。
 惨めなるは心。
 鈍重な身から解放されて、
 あまた世界中の木に恵みを与える水に還った、
 もう君は気に病むこともないのだろう。

 痛みからも苦しみからも解放されて
 既に鬱蒼と病む心も持たない君。
 希死念慮を今なお心に持て余して、
 希望の木ひとつ植えられなかった僕は
 君の選択を時に羨みたくもなるが……。

 だけど気の利いたジョーク一つさえ
 肉体と共に心を失った君は今は言えない。
 例え希望が根を生やさずとも
 好奇心を取っ掛かりに新たに生き直す術も
 心なき君には知ることも出来ない。

 木にとどまらず
 森羅万象あれこれの個性を日々に観察する
 個人記録のような営みが慰みとなることも、
 君の心の根が渇き切るその前に
 差しつ差されつ君に伝える夜が欲しかった。