殺人現場を目撃してマフィアから命を狙われる羽目となったウーピー・ゴールドバーグ演じるクラブ歌手デロリス。逃げ込んだ警察の手筈で、「ここなら見つかる可能性は薄い」とマフィアのボスの裁判が始まる日まで、一時的に女子修道院に匿われることになる。デロリスのことを心よく思えない院長は警察からのお願いを最初断る。しかし多額の寄付をチラつかされて、仕方なくデロリスを引き受けることにした。その院長から、メアリー・クラレンスという修道名を与えられて偽りの尼僧生活を始めた彼女。しかし今まで俗な夜の世界に生きてきて、身も心もそれに染まってしまっているデロリスが、突然放り込まれた修道院での尼僧生活に馴染める筈もない。俗なるものの価値観と聖なるものの世界。その辺のギャップが面白おかしく描かれている。登場する尼僧がそれぞれ個性がしっかり立っていて、更には憎まれ役の院長も含めて皆嫌味ではないので、俗と聖の軋轢にストレスなく付き合えるのも本作の特徴かつ良さだ。修道院という閉ざされた世界でいつしか頑なにこわばってしまった心。そんな尼僧達の心が、デロリスという突然放り込まれた異分子を通して次第に解きほぐれ、変化してゆく過程が実に清々しく描かれてゆく。途中までのその展開に、若干『カッコーの巣の上で』を思い出した。もちろん本作は良くも悪くもあんなに深く重い内容ではないが。そして『カッコーの巣の上で』が異分子が一方的に閉塞的な場所の人間に影響を与えてゆく物語なのに対して、本作は異分子デロリスも又、尼僧達からの影響を受けてメアリー・クラレンスとしての新たな顔が板についてゆく。それも特徴の一つだ。影響を与える側も影響を受けて、そういう相互作用が実にナチュラルに描かれている。偽りの仮の顔だった筈のメアリー・クラレンスが、新たな日々の積み重ねのなかで、いつの間にか真実の顔にすり替わっている。それが説教臭くなく、尼僧達との、又は地域住民達との交流を通して、楽しく生き生き描かれているのが観ていて心ほだされる。又ウーピー・ゴールドバーグがいつの間にか変わった感をすっとぼけた印象で好演しているので、思わず吹き出してしまう。この辺は流石のコメディエンヌっぷりだ。
もちろん本作の最大の見せ場であるロック調にアレンジされた聖歌隊のシーンも良き。それがあまりに評判を呼んで修道院にテレビ取材が訪れ、匿われているデロリスがテレビに映ってしまう間抜けさもコメディの定石として上手い。更には仲間としてすっかり受け入れられたクラレンスことデロリスをマフィアから救出するためにカジノ場へ繰り出す尼僧達のドタバタ奮闘劇も愛らしい。これでもかと情報量を詰め込んだような刺激には欠けるが、寧ろそれが味わいに繋がっている、終始なごんで観られた楽しいコメディ映画だった。
後にミュージカルに仕立て直されたらしいが、元々ミュージカルでヒットした作品を映画化したような内容にも感じられた。