初めて魔法を見せてくれたのは
幼稚園を訪れた君だった。
静かな微笑みと共に
鳩をシルクハットから羽ばたかせたのだ。
駆け出しの手品師だったのか、
特に横顔の美しさが印象に残っている。
真っ赤なスーツも小粋に着こなして、
忘れ難いクリスマスを届けてくれた君。
大ちゃんの手のひらに君が乗せたビー玉は
一体どこへ消えたのだろう?
一度ぎゅっと握られた大ちゃんの手が、
ふたたび開かれたその時に。
もしも僕が気の利いた子供だったら、
君の魔法を紐解く探究心を抱いたろう。
そして僕も手品師を目指したろう。
凍てつく村を訪れて鮮やかに花を咲かせたろう。
だけど魔法は魔法のまま夢見心地に、
この世の居場所どんどん奪われて、
やがて僕は老いてしまった。
空き缶を金塊に変える夢にうつつ抜かして。
老いてなお君のシルクハットが懐かしい。
大ちゃんが握ったビー玉が辿り着いた
世界の果てに思いも馳せる。
そして今は遠い君の笑顔も思い出す。
僕らに初めての摩訶不思議たくさん見せて、
だけど去ってゆく後ろ姿が妙に寂しかった、
その後の君の旅路に思いを馳せる、
五十路を過ぎてなお辿る寒き夜の帰路に。