幼き日に見た摩訶不思議。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 初めて魔法を見せてくれたのは
 幼稚園を訪れた君だった。
 静かな微笑みと共に 
 鳩をシルクハットから羽ばたかせたのだ。
 
 駆け出しの手品師だったのか、
 特に横顔の美しさが印象に残っている。
 真っ赤なスーツも小粋に着こなして、
 忘れ難いクリスマスを届けてくれた君。

 大ちゃんの手のひらに君が乗せたビー玉は
 一体どこへ消えたのだろう?
 一度ぎゅっと握られた大ちゃんの手が、
 ふたたび開かれたその時に。

 もしも僕が気の利いた子供だったら、
 君の魔法を紐解く探究心を抱いたろう。
 そして僕も手品師を目指したろう。
 凍てつく村を訪れて鮮やかに花を咲かせたろう。

 だけど魔法は魔法のまま夢見心地に、
 この世の居場所どんどん奪われて、
 やがて僕は老いてしまった。 
 空き缶を金塊に変える夢にうつつ抜かして。

 老いてなお君のシルクハットが懐かしい。
 大ちゃんが握ったビー玉が辿り着いた
 世界の果てに思いも馳せる。
 そして今は遠い君の笑顔も思い出す。

 僕らに初めての摩訶不思議たくさん見せて、
 だけど去ってゆく後ろ姿が妙に寂しかった、
 その後の君の旅路に思いを馳せる、
 五十路を過ぎてなお辿る寒き夜の帰路に。