なぜそんな極端なシフトになったかといえば、同僚の一人が病院の都合と称して大幅なシフト変更を急に求めてきたのが発端。以前から不貞腐れた態度ばかり取ってくる、更にはこういう突然のシフト変更とか急の休みを取って、仕方なく周囲が代勤でカバーしても、「悪かったね」や「ありがとう」の一言もない。日頃から胸糞悪く感じていた相手だが、今回は更に輪をかけて急で極端な要望。しかもさも当然であるかのように悪びれた様子もなくしれっとしている。堪忍袋の緒が切れて、僕も流石にブチ切れた。かなり怒りを露わにし、相手のその態度を面と向かってなじった。かつ本部にも今回も含めた今までのその行状を訴え、その同僚を異動させるよう迫った。
当の同僚にも聞き取り調査の末、全面的に相手の非が認められ、一度は異動が決定した。しかし当の本人が、「今は異動は困る。ここで働かせてください」と、あろうことか泣きながら殊勝に詫びを入れてきたので、とりあえず今回は今後の様子見ってことで了承したのだ。
以後がらっと態度が変わり、挨拶も含めて素直な大人しい態度が続いている。いい年こいたおっさんが、異動を告げられた途端、今までの横柄な態度から一転、いきなり泣き出したことも含めて、その急変ぶりによけい不快感が湧く。既に軽蔑以外どんな感情もその男には湧かない。
という経緯があり、更には一度決まっていたシフトを参考に、既に休日に予定を組んでいた同僚の要望も入れて、結果、世間が休日であった三日間全て職場で過ごす三泊四日連続出勤と相成った次第。そういう組み方しかどうしても出来なかったのだ。
そのご褒美というわけでなく、これも急なシフト変更による歪な連休であるが、十二日の水曜日から十四日の金曜日にかけて三連休を得ることが出来た。
連休が取れるのは五月以来、およそ五ヶ月ぶり。六月以降先月まで、休みが一日も取れない月も含めて、多い月で四日も取れればいい方。残業に次ぐ残業という状況が続いていたので、久しぶりに取れた連休が、いきなり三連休というのは正直戸惑った。本当はまとめて三日休めるより、もっと満遍なく多く休みが取れる方が有り難いが、まぁ今はそれをボヤいていても仕方がない。ひょんなことから取れた三連休を、せめて有効に楽しみたいと、今年は諦めていた秋の散策をその初日に当てることにした。今年はいつまでも暑さが残っていたが、ちょうど空気も秋らしくなったので、なおさら旅情が募ったのだ。
という次第で三連休の初日を早起きしてお出かけ。改まったお出かけは、夜勤明けを利用した五月の湯の山温泉散策以来だ。
場所は名張の赤目四十八滝。現地に到着するのに些か時間が掛かり苦労したが、車谷長吉の傑作長編の題名ともなっているその名所は、辿り着けば絶景に次ぐ絶景。見どころとしての五つの滝は奥地へ行けば行くほど圧巻なものとなり、更には絶え間なく続く水の清らで豊かな流れに接して、自然に癒されるものを感じた。入山料に五百円かかるが、往復で凡そ三時間は掛かるその道のりは十二分に元手が取れる。残念ながらからり秋晴れというわけには行かず、若干の薄曇りの日であったが、暑すぎず寒すぎず歩くにはうってつけ。鬱蒼と木々に囲まれて絶えず湿り気も感じて、決して明るい場所ではなかったが、やわらかい暗さがむしろ気持ちに落ち着きを与えてくれた。今年に入って人員的トラブルが立て続き、如何に自分が精神的に追い込まれた状態だったか、自然気持ちが内省にも向かった。
紅葉には全然早く、景色はまだ黒々と青かったが、川の流れから逸れて山道を散策すると至るところに赤とんぼが飛んでいて秋の風情を醸し出していた。恐らく渋柿であろう柿の実が、誰にも顧みられず、枝にぶら下がったまま腐り爛れているのも、見ようによっては乙な風情だった。地元の猫にも二匹出くわした。そのうち一匹は「にゃん」と僕に鳴きかけてくれて、その甘えたような声がいじらしかった。
散策に十分時間を費やし、それでも温泉にゆったり浸かれる時間が残っていたのも嬉しかった。そう、最後の締めとして、滝の入り口前のホテルで日帰り温泉を利用。湯の山温泉でも日帰り温泉に浸かったが、その時は些か時間的に慌ただしいものとなってしまった。今回はしかし時間に余裕があった。三泊四日連続出勤の疲れに打ち勝ち早起き。朝早く出立してよかったと開放感広がる露天風呂に手足のばして、しみじみ思った。内湯も打たせ湯に泡風呂もあり、露天風呂と同じく寛げた。
今回、歪ながら三連休が取れたことからも察しがつくかもしれないが、人員的には最悪な状況を脱して少し整いつつある。幾ら歪とはいえ、人員が揃っていなかった今までは三連休はどだい無理だった。連休さえ取れなかったのだから当然だ。今月終わりにはもう一人補充される。入ったばかりの今の新人は情緒不安定で、既に人格的に心もとない。先に述べた異動を告げたら泣き出した奴は、今後も入退院を繰り返しそうな予感はある。まだ安心はしきれないが、とりあえずしばらく一段落気分を味わいたい。散策に過ごした一日を終え、そのあと自宅で連休ゆっくり過ごせたのも、久しぶりに有り難かった。出来るなら毎日が休みの日々を過ごしたいのは山々だが、とりあえずその願望は置いておいて、散策に初日を費やし、その後を二日自宅で過ごせて、かなりリフレッシュ出来たのは確かだ。若い頃は残業で稼ぐのもありかと思っていたが、今は普通に休める日々を望む。もう根気が湧かず、長時間勤務が年々しんどくなってきているのだ。
という次第で状況がこのままトラブルことなく良くなってくれることを願う。
今年最後となるであろう、そして今年は無理と思っていた秋の散策を楽しめたことを僥倖に思う。