映画『来るべき世界』。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 録画しておいた『来るべき世界』を観て凄く感動した。何に感動したかって、これ、1936年に製作された映画だぜ。そう、今から80年前に発表されたH・G・ウエルズ原作・脚本のSF映画が、歳月に風化して陳腐になっている処か、寧ろ歳月に洗われて、新鮮な輝きが増しているように思える処だ。カメラワークも構成も見事だけれど、特撮の妙技は惚れ惚れする。CGは勿論、機材もそれほど発達していなかったであろう時代でも、これだけ空想力豊かに空中戦や近未来を描き出す事が出来る事に感心頻り。無論1936年から観た未来なので、その近未来の風景はかなりシュールなのだけれど、しかし見下した気分には到底ならない。先達の、その夢想を映像表現として形にする為の創意工夫に敬意を覚えるばかりだ。戦争で撒かれたウイルス『夢遊病』に感染した人間の動きや発想など、これって完全にゾンビ映画の先駆けじゃん!……という事に驚かされるし、人類が実際に月に到着する三十年も前に描かれた宇宙旅行の方法が『空中砲』なる、いかにもH・G・ウエルズの未来予想図的な代物なのも楽しい。そういえばSF小僧だった中学生の頃、SFの祖・ウエルズの作品は結構読んだっけな……と懐かしくなってしまった。
 単純に反戦映画とも受け取れる。或は発達する科学への懐疑がテーマという見方も出来る。逆に、「人類は全宇宙を支配しなければ無に還ってゆくしかない……」という黎明期のSFらしい壮大なフロンティア精神を大真面目に主張したかったのかもしれない。各パートごとに、それぞれのメッセージがあるのだろう。でも単純に、キッチュな物語の面白さと特撮も含めた映像のセンス、そして80年前の夢想家たちが描いた未来予想図を楽しむ、それだけで十分に観る価値はあった作品だと思う。
 ちなみに僕はこの映画、あまりにもツボに嵌まって立て続けに二回観た。