夏のみを生きて今は死んでいる。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 夏にしか生きられない生き物がいる。
 夏にしか生きられない生き物は、
 他の生き物よりも激しく夏に生を燃焼させる。
 でも夏にしか生きられない生き物は
 夏以外の季節を生きられない。
 だから死んでいる。もう長い間ずっと死んでいる。
 でも別に構わない。焦燥もなければ悔いもない。
 今はすでに自己嫌悪もない。
 死ぬときには死ぬがよかろうと昔むかしの坊さんも言っていたけれど
 死んでいなければならないときは死んでいるのがよいのだろう。
 夏の間こつこつ真面目に働いて
 豊穣の秋にみごと実を結んだあなたは
 真冬も暖炉の前で薄着のドレスで身を輝かせて
 実際とても優雅で美しい。
 でも別段あなたのことを羨んだりはしない。
 なぜって僕の死骸の中には夏の記憶たっぷり詰め込まれているから
 亡骸に過ぎぬ僕の身体は満ち満ちて温かい。
 願わくばもう一度くらい夏の季節が巡って来ないかと
 そう思うこともあるけれど、まぁ、
 この身に二度と夏が訪れなくてもそれはそれで構わない。
 生きながらに葬られている現在が
 幸福な状況の筈はないけれど、でも僕の死は、
 夏の記憶と結びついて歌を紡ぐ故それほど不幸なわけでもない。

 うん? そもそもそれ以前に
 幸福とか不幸とか、
 希望とか絶望とか、
 それって一体なんの話をしているのだ?