大正時代の円谷英二の作品が…怖い。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 怖い。物心が付いたばかりの頃にこの映像を見ていたら、無意識の世界に広がる風景を垣間見てしまったかのような畏怖に泣き出してしまっていたと思う。
 いま録画しておいたNHK『知恵泉』の円谷英二特集を観ているのだけれど、ドイツで芽生えた表現主義(画面の陰影を強調したり、セットを歪ませる事で、人間の内面や社会の本質を表現する方法)に影響を受けて円谷英二が大正15年に製作した『狂った一頁』という映画の映像表現が、これ、完全に夢の中の光景。黒澤明が自分が見た夢の情景をモチーフに、その晩年に制作した『夢』という映画よりも遥かに、その質感が夢そのものを体言している。円谷が影響を受けた表現主義の代表例として紹介されていた『カリガリ博士』や『吸血鬼ノスフェラトゥ』の映像も、当時の制作者の意図を超えて、かなり夢の中の光景を彷彿とさせるものがあるけれど、円谷の映像の夢の光景との近似値は群を抜いているのだ。
 黒澤明の『夢』は残念な出来映えだったけれど、もしも円谷英二が夢をモチーフにした映画を制作していたならば。つげ義春とはまた違う形で、夢の中の情景を表現する事に成功していたに違いない。