映画『荒野の決闘』。 | 春田蘭丸のブログ

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願わくは角のとれた石として億万年を過ごしたい。

 光と陰が織り成す構図に徹底的にこだわって撮影されたモノクローム映像が実に美しい。本来なら殺伐とした荒野に過ぎぬ西部の風景が、水墨画めいた味わいも醸し出されながら、叙情豊かに広がっているのだ。
 ヘンリー・フォンダ演じる主人公も魅力的だった。まぁ確かに映画冒頭で、いきなり、「インディアンに酒を飲ませるなんて」という露骨な先住民差別発言をしてしまうのだが、その失言を、映画が製作された時代の差別に対する認識を考えれば仕方がないよね…と大目に見てしまえるほど憎めない味があるのだ。
「恋におちた事は?」
「生涯独り身ですよ」
 遠目に見惚れていた愛しの女が酒場から立ち去った直後に、溜息まじりにヘンリー・フォンダが酒場の店主と交わす会話だ。
 そう、『荒野の決闘』の一番の魅力は、硬骨漢の中年男が恋心に翻弄されて花の香を漂わせたり、柄になく不器用なダンスを踊ったり、という滑稽味に醸し出される愛らしさなのだと思う。