その昔カルロス・パイタという指揮者がいました。アルゼンチンの上流階級出身でフルトヴェングラーに憧れて音楽を勉強し、ロジンスキーに師事したのちローディアというレコード会社を通して自分の好きな曲を名の知れたオーケストラを使って録音を残しました。そのあざとい芸風はマニアの間で割と話題になったものです。私も数種類の録音を持っていますが、演奏は金持ちの道楽みたいなノリで、やりたい放題。コレクター向きの指揮者です。

で、今日は久しぶりのMPO定期。前半にシェーンベルクの浄夜、メインはリヒャルトのアルプス交響曲です。いいプログラムです。指揮は話題のクラウス・マケラ。開演前から不安がつのりましたが、会場に入ると弦楽器奏者の三分の一くらいが舞台上で練習していました。アメリカのオケは開演前からメンバー全員が席について音出しをしているのが普通ですがドイツのオケではそんなことはしません。良し悪しあると思いますが、別に本番直前までさらっていなくても本番がちゃんと成立します。今日みたいな光景を見るとリハ不足なのか?でも今日は同プロで三日目なんだけどなぁとちょっと不安になりました。

さてマケラ。まぁ予想通りといえばそれまでですが、こんなにも振れないものかと思ってしまいました。構成もバランスもめちゃくちゃ。鳴らしたいところをただ鳴らし、引っ張りたいところをただ引っ張り。いずれの曲も表現力を問われる曲だと思いますが、何も印象に残りませんでした。以前にも書きましたが、彼は音を鳴らしたい時に強く振ってしまうので音楽が単調になります。YouTube でパリ管だったかを振ったマーラーの復活の映像がありますが、冒頭の振り方がまさにそれで、あの調子でフォルテを表現するのです。アルプスの様なわかりやすい標題音楽は曲のピークをどこにどう持っていくのか、実は難しいと思うのですが、マケラの指揮では冒頭の太陽の主題でもう頂上に着いたの?という感じで全く構成力が無かったです。指揮を見ているとよく動くのですが、出てくる音が振りと合っていなかったりして、見ていて非常にストレスが溜まりました。

音がでかいので録音で聴いたらツボにハマって悦に浸る人もいるでしょう。ただ私には中身のある音楽に聴こえません。現代のパイタだと思えば腹も立たないかな、と帰り道にふと思いました。チェリビダッケ大先生はどう感じるでしょうか…



開演前にこんなに舞台で練習していたのは珍しいです。


音が大きければ盛り上がるというのはどうなんでしょう?