スタンリー・キューブリック監督

スティーヴン・キング原作

 

 

ホテルの管理人を務めるトランス一家。主人公のジャックは孤独と過去の悪夢に苛まれ,狂気にとらわれていきます。妻と息子はジャックの暴走とホテルの呪いと闘いながら生き延びようとするお話

 

トランス一家の構成は

主人公 ジャック (ジャック・ニコルソン)

その妻 ウエンディ(シェリー・デュヴァル)

息子  ダニー

 

 

一家は雪のため冬季は道路も閉鎖されるコロラド州の山のホテルの管理人としてやってきます

 

一家がホテルの着くまでにいくつかの伏線が紹介されます

 1)ジャックがダニーを振り回して肩を脱臼させたこと

    DVDのコンチネンタルバージョンではこのエピソードは省略されていました

 2)過去の管理人(グレディ)が妻と二人の娘を斧で殺害して,自殺したこと

 3)ドナー隊の悲劇1が話題として出たこと

 

ダニーは未来を予知できる能力があることがそれとなく描かれています  

ホテル料理長のハロラン(スキャットマン・クローザース)はそれがシャイニング(超能力,閃き,霊感)だと説明します

 

ホテルでの生活が始まり1ヶ月過ぎた頃からからいろいろなことが起きてきます。

 

 

火曜日→木曜→土曜→月曜と1日おきに起こったできごとが紹介され,水曜からは一気に恐怖のてんこ盛りです

 

火曜日

ジャックがタイプライターでパチパチ原稿を書いているのですが,いらついてウエンディに切れます。

 

木曜日

ウエンディとダニーが外で遊んでいますが,家の中にいるジャックの表情はすでに狂人でした

 

 

土曜日

ダニーが廊下を三輪車で走り回ります。角を曲がると2人の少女と斧で血まみれになった映像が目に浮かびます。流れる音楽がまた恐怖をあおります。

過去の管理人が娘たちを殺害したというエピソードが思い出されます

 

月曜日

外は吹雪いています

やつれたジャックを見てダニーが「ママや僕をいじめないで」と言います。これから起こることの予知でしょうか

 

そして水曜日

ジャックがダニーとウエンディを殺して切り刻んだ夢をみて,そこから幻想なのか現実なのか混沌として入り乱れた世界が始まります

 

ダニーが何者かに首を絞められます

 

ジャックがCold Room(宴会場)のバーに入りバーボンを飲みます

237号室に全裸の美女がいたと思ったら腐敗した老女でした

グレイディという名のウエイターは斧で家族を殺害した元の管理人でジャックに家族を厳しくしつける (Correct)ように勧めます

 

ウエンディがジャックの原稿を見ると “All work and no play makes Jack a dull boy.” という文が延々と続いていることに驚き,ジャックが狂っていると認識します。

ジャックを食品庫に閉じこめましたが実在しないはずのグレイディが鍵を開けました。

 

そこから有名な斧を持ってウエンディとダニーをしつけるシーンに入っていきます

 

"Here is Johnny!”

 

ダニーは庭の迷路に逃げ,足跡を隠し,自分は入り口に戻ります。賢い !!

ジャックは迷路から出られず凍死

最後にホテルの昔の集合写真を見ると中央にジャックが映っていました

 

 

この映画,原作者のスティーヴン・キングは自分の小説が映画化された作品の中で唯一嫌っている作品だと言っています。一番不満だったのはウエンディの描写だったようです。小説では息子を守ために奮闘する強い母だったのに映画の中ではただ泣き叫んでいる女性差別的なキャラクターになっているのが理由です。

 

 

キューブリック監督はウエンディを演じるシェリー・デュヴァルに対して何度も演技のやり直しを要求し,追い込みも過激でした。事実,髪が抜け落ちるほどのストレスを与えたようで,パワハラに近い演技指導だったようです。ただしこれは絶望的な気分にさせるためのスタンリー・キューブリックの戦術だったとも伝えられています。

 

ニコルソンもこの映画は自分のキャリアの中でも最も困難なものだったと語っています。まあこの映画での演技は鬼気迫るものがあります。まさに怪演でしょう。

すごいと思います

 

 

料理長を演じたクロサーズもこの映画で苦戦を強いられ,監督は1シーンで100テイク以上演じさせたようです。彼の次回作,クリント・イーストウッド監督の ブロンコ・ビリー(1980)の撮影の際は1テイクで撮影終了したので感謝の涙を流したそうです。

 

 

この映画はホラー映画の中でも特に視覚効果やカメラワークに注目されます。映画の中の追跡シーンやトリッキーなカットは,映画史において革新的な手法として評価されています。

 

ステディカムという開発されたばかりのカメラを使用しています。移動によって生じるブレや振動を抑え,スムーズな映像を撮影するためのスタビライザーを搭載したカメラ装置です。

ステディカムの発明者で,オペレーターでもあるギャレット・ブラウンがこの映画のために雇われました。撮影が6ヶ月を超えることはないだろうと高をくくっていたところ,半年過ぎても半分も終わりませんでした。数ヶ月間,ロッキー2(1979)との掛け持ちのため,フィラデルフィアとロンドン間を毎週日曜日,コンコルドで行ったり来たりしたそうです。

 

この映画,ロンドンで撮影していたと言うことですが,撮影中(たぶん1979年),テニスのウインブルドン選手権が開催されていました。熱心なテニスファンだったジャック・ニコルソンは何とか見に行きたくて仮病を使って休んだそうです。不運なことに観覧席に座っている姿が放映されてしまいキューブリック監督は激怒したという話です。この年(1979年)の優勝者は男子ビヨン・ボルグ,女子マルチナ・ナブラチロワでした。テニス好きならこりゃ見たいな。

 

 

この映画のホテルの外観はオレゴン州のティンバーライン・ロッジで撮影されました。

支配人が映画製作者に宿泊客が拒否すると困るので原作にある217号室を使わないよう頼み,呪いの部屋は237号(実際のホテルにはない部屋)に変更されたそうです。

 

AFI(アメリカ映画協会),スリルを感じる映画ベスト100(2001)で29位

ヒーローと悪役ベスト100(2003)でジャック・トランスは25位の悪役に選ばれました

 

アメリカ映画の名セリフベスト100(2005)でジャックが壊したドアから顔を出して 言うセリフ ”Here is Johnny!” が68位に選ばれています。

この言葉はバラエティ番組「The Tonight Show Starring Johnny Carson」でジョニー・カーソンを紹介する時に言ったセリフのパクリです。ニコルソンがアドリブでやってそのまま採用されたようです

 

 

さてこの映画と「おもいでの夏」のつながりですが,俳優やら映画スッタフではありません。この映画の "月曜日" のはじめにウエンディとダニーがテレビで「おもいでの夏」を見ている場面がありました。ドロシーの家までハーミーが買い物袋を抱えて持って来た場面です。

DVDのコンチネンタルバージョンではこの場面も省略されていました

どうしてキューブリック監督がこの映画を使ったのか長い間謎に思っていました。

キューブリック監督の奥さんが「おもいでの夏」が好きだったというトリビアを発見しました。それが理由でしょうか

 

 

“The Shining” のタイトルはスティーヴン・キングによるとLennon / Ono with The Plastic Ono Bandのインスタント・カルマ INSTANT KARMA! (1970) にインスパイアされたものだということです。

 

サビの部分いいですね

 Well, we all shine on

 Like the moon and the stars and the sun2)

 Well, we all shine on

 Every one, come on

 

 

 

 

 

1)   ドナー隊の悲劇

1846年,アメリカ東部からカリフォルニアをめざした開拓民が遭難した事件です。

カリフォルニア州東部を縦貫する山脈であるシエラネバダ山脈での越冬を余儀なくされ,食料のないなか,生きるために亡くなった仲間の人肉を食べたという悲劇的な事実です。飢えというのは恐ろしいものですね。

 

2) 小惑星探査機「ルーシー」

2021年,NASAから木星のトロヤ群小惑星に向けて小惑星探査機「ルーシー」が打ち上げられました。ルーシーは数十万年に渡り地球近傍と木星のトロヤ群のあいだを往復するような軌道を飛び続ける予定です。

ルーシーには搭載されたプレートがあります。いわばタイムカプセルのようなもので,これらのテキストは未来の人類へ向けたメッセージとなっています。

その中にビートルズのメンバーのメッセージも記されています。

We all shine on....like the moon and the stars and the sun

ジョン・レノンのメッセージはこの曲の一部でした