これは何回目かのリバイバル上映の際のパンフレットの表紙です。

昭和51年5月発行になっていました。ちなみに200円

ジョン・スタージェス1監督

「大脱走」とは監督,音楽のエルマー・バーンスタイン,出演者スティーブ・マックイーン,チャールズ・ブロンソン,ジェームズ・コバーンつながりです。

 

黒澤明監督の七人の侍(1954)のリメイク版として有名です。

 

 

貧しいメキシコの村にカルヴェラ(イーライ・ウォラック2))率いる無法者集団(「七人の侍」でいえば野伏せり)が貧しい村を襲い,食べ物を奪っていきます。農民は用心棒としてのガンマンを探しに行き,そこで集まったクリス(ユル・ブリンナー)をはじめとする7人が村を守るという話。「七人の侍」と内容はおおむね同じです。

 

タイトルクレジットではユル・ブリンナー,イーライ・ウォラック,スティーブ・マックイーンの順で俳優が紹介され,Co-Starring(共演者)としてチャールズ・ブロンソン,ロバート・ヴォーン,ブラッド・デクスター,ジェームズ・コバーンが紹介されます。最後にAnd Introducingとしてホルスト・ブッフホルツが紹介されます。

この映画公開当時すでにユル・ブリンナー3)は俳優として大成していました。イーライ・ウォラックも舞台俳優として評価されており,このような順番になったようです。

スティーブ・マックイーンはTVドラマの「拳銃無宿」で人気上昇中だったようなので3番目に名前が載っています。ホルスト・ブッフホルツはドイツでは人気のあった俳優でドイツのジェームス・ディーンと言われてハリウッド進出の映画でした。彼をスターとして紹介するためにキャストの最後尾に登場させたようです。

 

カルヴェラらの被害にあった農民は街に銃を買いに出かけました。

ここで目にしたのがクリス(ユル・ブリンナー)とヴィン(スティーブ・マックイーン)の働きでした。白人以外の埋葬を拒む連中に攻撃される中,馬車でインディアンの遺体を墓地までみごと運びました。

 

馬車で移動の途中にあったP.ギャレットと書かれた店先を通過しますが,パット・ギャレットは西部開拓時代のアウトロー,ビリー・ザ・キッドを射殺した保安官です。これもこだわりでしょうかね。

 

クリスに相談しガンマンを集めることになったところは「七人の侍」と同じです。

クリス(ユル・ブリンナー)が「七人の侍」での勘兵衛(志村喬)役です。

 

 

ガンマン募集に応じてきたチコ(ホルスト・ブッフホルツ)相手にかしわ手を打って抜き打ちの技を披露するところ,カッコいいですねぇ。

この場面はかつて富士フイルムのフジカラー400(フォーハンドレッドと呼びます)のCMに使われていました。この当時の世界初の高感度(ASA400)のカラーネガフィルムです。

 

ハリー(ブラッド・デクスター)は秘密の金目の仕事があるだろうと参加し,一度別れたヴィン(スティーブ・マックイーン)は雑貨屋の仕事続かないので20ドルじゃ弾代にもならないといいながら参加。

オライリー(チャールズ・ブロンソン)はかつて600,800ドルの仕事をしていましたが,今や薪割りで飯を食わしてもらっている身分,20ドルでも今は大金と言い参加します。オライリーは薪割りをしているところを見ると「七人の侍」では平八(千秋実)の役割でしょうか。

ナイフ投げを得意とするブリット(ジェームズ・コバーン4))は「七人の侍」では久蔵(宮口精二)の役でしょう。自分との勝負を生き甲斐にするため,参加する気はありませんでした。酒に酔ったチコがクリスからガキのように扱われたと銃を乱射してもクリスが平然としていたのを見て参加することになったようです。

リー(ロバート・ヴォーン)は暗い過去があり,悪夢にうなされるという「七人の侍」にはいない役柄でした。ホテル代が払えなくてホテル代の20ドルを前払いしてもらうことを条件に参加しています。チコは「七人の侍」でいえば菊千代(三船敏郎)と勝四郎(木村功)を合わせたような役どころです。

 

この七人のガンマンを紹介するくだりはなかなかおもしろく「七人の侍」を踏襲していると思います。

 

最初にカルヴェラの手下が下見にきたところをブリットが遠方から射殺するところ。

チコの賞賛の言葉に対して,馬をねらったんだと言うところ,イイですね。

 

最初の闘いに勝利した後,チコは勝利に浮かれて有頂天になります。

「すごかった,村人はこの勝利を歌にして語り継ぐ」と言います。

しかし,ほかのガンマンたちは沈んでいます

クリス    大袈裟だ,銃の撃ち方を知っていただけ

ヴィン    なじみになったバーテンダー,ディーラーは山ほどいる

     ホテルや食事には多くの金を費やした

     だが女房や子供や家はない

クリス    ゆっくり落ちつく場所もなければ腹を割って話せる相手もいない

 

こういったネガティブ発言はこれまでの西部劇になかった斬新な描き方と言われています。

 

村人も意見が一致していません

山賊たちの仕返しが怖いので村から出て行ってくれと言う村人もいました。

 

その後,7人はカルヴェラたちに夜襲をかけようとしましたがもぬけの殻

逆にある村人の手引きで村が占領されていて,7人は,村から追放されてしまいます。

 

しかしカルヴェラは意外といいヤツだと思っちゃいますよね。

助けるのか。しかも銃まで返すのか。

「七人の侍」ではこのエピソードはありませんでしたし,野伏せりはほとんどセリフがなくただ,「悪」として描かれていました。この映画では人格を持ったヒトとして扱われているのでちょっと盗賊集団と言っても感じ方が違いました。

 

闘いも「七人の侍」の方がもっと血なまぐさい。

「七人の侍」では捕虜にした野伏せりが百姓らの集団リンチに合うところや,野伏せりのねぐらに火をつけるところなどはかなりシリアスに描かれていると思います。

 

ヴィンがクリスに

 町であんたに会った時は銃を捨てて小さな牧場でウシでも飼おうかと考えていた。

 人から信用されて暮らすのが長年の夢だった

 だがあんたに会ったことは後悔していない    と言います

 

劇中ではこういった信頼関係が築かれていましたが,映画撮影時にはバチバチの確執があったようです。晩年になってようやく和解し,癌のため病床にあったマックイーンはブリンナーに「荒野の七人」に起用してくれたことに感謝したということです。

 

村に戻ってきた7人のうちハリーが最初に犠牲になります。

村の護衛に20ドルというのは建て前で何かすごい報酬があると勝手に想像していたわけですが,死に際にクリスから金があり分け前は1人7万ドルと言われ満足しながら死んでいきます。

リーは監禁されていた村人を解放しその直後に銃弾に倒れました。解放された村人は賊を襲います。さらにブリットもうたれ,子供たちをかばいオライリーも撃たれます。

 

7人のうち4人が死ぬのは「七人の侍」と同じです。

この映画では死ぬ役だったチャールズ・ブロンソン,ジェームズ・コバーンですが,「大脱走」では76人中逃げおおせたの3人の中の2人でした。

 

村の長老が言います

農民だけが勝ち土地と同じように永遠に生き残っていくでしょう

風がイナゴを吹き飛ばすように退治してくれた

そして今,風のように我々の土地を過ぎ去っていく

神の祝福を

終わり方は「七人の侍」と同じですね。

 

どうしてもこの映画は「七人の侍」と比較してしまいますが,上映時間も「七人の侍」の207分に対して128分と短いですし,描ききれないところもあったかもしれませんがそこはやむを得ないでしょう。

この映画からスティーブ・マックイーン,チャールズ・ブロンソン,ロバート・ヴォーン,ジェームズ・コバーンなんかは有名になっていったと言ってもいいと思います。

 

この映画はメキシコでロケしていますが,「大脱走」のチャールズ・ブロンソンのコメントにもちょっと書いたベラクルス(1954)でのメキシコ人の描き方がかなりメキシコ人の神経を逆なでしたようです。

そのため最初からガンマンを雇うとすると,自国が弱く虐げられているように見せたくないというメキシコの検閲官をなだめるために,農民が銃を買うために街に行ったけれどクリスの助言でガンマンを雇うという筋書きに変更されました。

どの場面でも農民がきれいな白い衣装を着ているのも検閲官の指示だったようです。

 

「七人の侍」をリメイクしようとしたのは最初,アンソニー・クインだったようです。企画をユル・ブリンナーに話し,監督ユル・ブリンナー,主演アンソニー・クインという路線が考えられていたらしいです。でもいろいろもめてジョン・スタージェス監督に落ち着いたらしいです。リメイクするにあたっては「七人の侍」の配給会社東宝は原作者の黒澤明らに断りを入れずに,このこともわだかまりを残す結果になっています。

 

映画製作にはいろいろな出来事がつきまといますが,われわれ観客はそのようなことは考えずに楽しめばよいのですが,どうしても裏事情にも興味を持ってしまいます。

 

 

ジョン・スタージェスの骨太な演出や七人のガンマン達のMagnificent(壮大,素晴らしい,華やか,輝かしい・・・)な演技,そしてエルマー・バーンスタインのテーマ曲,これが全てでしょう

でも驚くべきことにこの映画の音楽もアカデミー賞の作曲賞を受賞していません。

受賞したのは栄光への脱出(1960年)のアーネスト・ゴールドです。

「荒野の七人」はAFI映画音楽ベスト100の8位にランクインしています。

録音したオーケストラのメンバーにピアノ演奏で参加していたのは,かのジョン・ウィリアムズという話です

 

 

1)   ジョン・スタージェス

ブラボー砦の脱出(1953)で頭角を現し,日本人の勲章(1955)ではアカデミー賞監督賞にノミネートされました。OK牧場の決斗(1956),ゴーストタウンの決斗(1958),ガンヒルの決斗(1959)と決闘三部作のヒットから「荒野の七人」,「大脱走」という群像劇の監督へと続いていきます。

不利な状況下にあっても諦めない不屈の男たちを描いた作品で高い評価を得ています。

「荒野の七人」はアメリカでの公開当時は酷評で興行的にも成功したとはいえない映画でしたが,この映画を見た黒澤明はたいそう感動して監督に儀礼用の刀を贈ったと言われています。

ちなみにどちらに監督も1910年生まれです

最終的にはこの映画,ヨーロッパでは大ヒットして黒字になっています。「大脱走」の撮影時にはスティーブ・マックイーン、ジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソンの3人は撮影現場でサイン攻めにあったようです。

 

2)  イーライ・ウォラック

アクターズ・スタジオに参加し,舞台俳優としてトニー賞を受賞するなど実力派として活躍していました。

セルジオ・レオーネ監督,クリント・イーストウッド,リー・ヴァン・クリーフと組んだ続・夕陽のガンマン/地獄の決斗(1966)の悪役ぶりは特筆するに値します

 

3)  ユル・ブリンナー

王様と私(1956)でアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。セシル・B・デミル監督の十戒(1956)で演じたエジプト王ファラオも印象深い役でした。

ウエストワールド(1973)ではガンマンのロボット役を演じますがこの時の服装などは「荒野の七人」とほとんど同じでした。

 

「荒野の七人」では葉巻をくわえる姿がキマッていましたが,肺ガンで亡くなりました。禁煙キャンペーンのCMの出演していました。

 

4)   ジェームズ・コバーン

「荒野の七人」後,ドン・シーゲル監督の突撃隊(1962),「大脱走」,スタンリー・ドーネン監督のシャレード(1963),サム・ペキンパー監督のダンディー少佐(1965)に出演しました。電撃フリントシリーズでは主役も務めています。その後もセルジオ・レオーネ監督の夕陽のギャングたち(1971)に出演,サム・ペキンパー監督のビリー・ザ・キッド/21才の生涯(1973)では保安官パット・ギャレット役を演じています。

「荒野の七人」に出演した頃は体型が細いですね。

ちなみにブリット役はロバート・ボーンの推薦によるものです。この二人は学友で仲良しでした。でも共演したのはこの映画だけです。

もう一つ,ルパン三世の次元大介のモデルは「荒野の七人」のブリットだと言われています。