19.【源実朝~歌と身体からの歴史学

 

 評価:70点/作者:五味文彦/ジャンル:歴史/出版:2015年

 

 『源実朝~歌と身体からの歴史学』は、鎌倉幕府の三代将軍、源実朝の伝記書である。

 源実朝が、関東の長者として、政治に臨み、内紛に対処し、二所詣を行い、和歌の創作に励んだのかを、鴨野長明、栄西等の影響を含めた、全体像を検証している。

 本書の作者である、五味文彦氏は、東京大学文学部国史学科卒業後、同大学大学院人文科学研究科博士課程中退。

 東京大学文学部助手及び、お茶の水女子大学文教育学部助教授、東京大学文学部教授を経て、東京大学大学院人文社会系研究科教授。

 本書執筆の2015年の時点においては、放送大学教養学部教授。専攻は、日本中世史。

 本書の他、単著は、2021年時点で、五十冊に加え、編著は、三十二冊を数える、多筆家。

 歴史書として、『院政期社会の研究』『鎌倉と京:武家政権と庶民世界』『平清盛』『源義経』『躍動する中世』『日本の中世を歩く』等、多数存在する。

 その他に、『吾妻鏡の方法:事実と神話にみる中世』『藤原定家の時代:中世文化の空間』『「徒然草」の歴史学』『明月記の史料学』『日記に中世を読む』『書物の中世史』『「枕草子」の歴史学:春は曙の謎を解く』等の史料論及び、国文学の研究書の著書多数。

 更に、『後白河院:王の歌』『西行と清盛:時代を拓いた二人』『後鳥羽上皇:新古今集はなにを語るか』『鴨長明伝』、そして、源実朝を政治家、歌人の両面から検証した、本書等、日本中世史、国文学の知識を総合した、著書が、特徴的である。

 源実朝の存在は、興味深く、多くの著名な文学者が、実朝に触れている。

 しかし、実朝に関する、基本的史料は、『吾妻鏡』であるが、鎌倉幕府の歴史書として、編纂されたため、『吾妻鏡』のみで、実朝の肉声を捉えるのは、困難である。

 『吾妻鏡』は、幕府の関係者が、鎌倉時代の末期に編纂したため、後世の評価、政治的立場からの史料解釈と曲筆、史料の貼り間違いが、多い等の問題点が、存在する。

 更に、実朝の出した、文書を調べて、その性格を考察し、『吾妻鏡』の分析と合わせることにより、将軍権力の展開を探ったが、実朝の肉声に迫るのは、困難であった。

 そのため、改めて、その詠んだ、和歌から、考えなければ、実朝に肉薄できなかった。

 和歌から、実朝に迫る、試みは、斎藤茂吉を筆頭に、行われていたが、改めて、見ると、和歌史研究は、主に実朝を歌人としての側面からのみ捉え過ぎている。

 本書の前年の2014年の出版、坂井孝一氏の「源実朝~「東国の王権」を夢見た将軍」は、和歌に歴史的接近を試みている点では、貴重であるが、総じて、和歌史研究の延長線戦上に存在するため、自説の補強の面が、濃いと思われる。

 筆者は、本書を読む、直前に、坂井孝一氏の著書を読んでいるが、正直、両者の違いが、理解できなかった。

 筆者は、和歌に興味はないが、本書は、鎌倉幕府の三代将軍、源実朝の生涯を詳細に記述しているため、源実朝を理解するための欠かせない、一冊である。