18.【曾我物語の史的研究

 

 評価:65点/作者:坂井孝一/ジャンル:歴史/出版:2014年

 

 『曾我物語の史的研究』は、「赤穂事件」「鍵屋の辻の決闘」と並んで、日本三大仇討と称される、「曾我兄弟の仇討」を題材とする、軍記物語、『曾我物語』に関する、解説書。

 筆者は、静岡県富士市出身のため、個人的には、郷土史でもある。

 本書の作者である、坂井孝一氏は、東京大学文学部国史学科卒業後、同大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得。

 本書執筆の2005年時点においては、創価大学教授。

 専攻は、日本中世史。本書の他、『曽我物語の史実と虚構』『曽我物語の史的研究』の曾我物語研究の単著があり、2015年、本書、『曽我物語の史的研究』にて、文学博士号を取得する。

 2014年以降には、執筆活動が、活発化しており、『源実朝~「東国の王権」を夢見た将軍』『源頼朝と鎌倉 (』『承久の乱~真の「武者の世」を告げる大乱』『源氏将軍断絶~なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか』『『鎌倉殿と執権北条氏――義時はいかに朝廷を乗り越えたか』の鎌倉幕府の草創期に関する、単著を、七年間で、五冊、出版している。

 本書は、「曾我物語」の解説書であり、文芸作品としての「曾我物語」ではない。

 作者は、序章として、現存する、「曾我物語」の写本を、「真名本」「仮名本」に分類する。

 そして、過去の「曾我物語」の研究について、文学・民俗学及び、歴史学の視点を紹介している。

 明治期、「曾我物語」は、歴史学の「史料」ではなく、単に、「物語」と捉えられていた。

 大正期に、三浦周行が、『曾我兄弟と北条時政』を執筆して、『吾妻鏡』における、筥王の元服に注目し、烏帽子親となった、北条時政に着目した。

 北条時政は、源頼朝の妻、北条政子の父であり、頼朝の死後、有力御家人を排斥して、北条氏の執権政治の基礎を築いた。

 しかし、源頼朝の財政中は、北条時政は、不遇であり、三浦周行が、北条時政が、曾我兄弟に、仇の工藤祐経のみならず、祐経を重用している、頼朝を暗殺させようとしたとの「北条時政黒幕説」を発表したのである。

 その後、「曾我兄弟の仇討」は、単なる、父を殺された、若い、兄弟の仇討事件ではなく、「富士の裾野の巻き狩り」における、陰謀事件の一角との説が、登場するようになった。

 永井路子氏は、曾我兄弟の仇討を、源頼朝に対する、不満分子のクーデターとしており、巻き狩り後の源範頼の誅殺、常陸の政変、大庭景義、岡崎義実の出家と結び付けている。

 本書は、最初に、「曾我物語」の「真名本」を分析して、「頼朝と伊東の物語」、「貧しく、不遇な若者の物語」、「狩庭の物語」、「仇討の物語」に分類し、その中に、仏教的価値観が、反映されているとする。

 その後、本書は、日本史研究における、鎌倉時代の原史料である、『吾妻鏡』の記事を丹念に広い挙げ、「曾我物語」の歴史的背景を分析している。

 『吾妻鏡』の記述では、曾我兄弟の仇討の夜、余りに多くの死傷者が、発生したため、現在の歴史学において、前述の通り、単なる、「仇討の物語」としては、捉えられていない。

 本書は、鎌倉幕府草創期を知るための欠かせない、一冊である。