本作において、室町幕府の第十五代将軍、足利義昭を演じるのは、滝藤賢一。

 多くの作品では、義昭の良い面は、皆無に近く、圧倒的に無能な人物として、描かれる。

 本作では、義昭は、覚慶、即ち、興福寺一条院の門跡の時代から、登場し、駒と知り合っている。

 本作の足利義昭は、優しく、民の困窮に心を痛め、武士としての自身の無能を自覚した、人物として、描かれている。

 滝藤賢一の大河ドラマ出演は、2010年の『龍馬伝』の小松帯刀役に続いて、二度目であるが、筆者には、記憶がない。

 滝藤は、2013年のTBSの日曜劇場、『半沢直樹』の主人公、半沢直樹の同期の三人の一人、近藤直弼役で、大ブレイクを果たした。

 そして、当初、2020年4月放送開始予定の『半沢直樹~2020』に、同期トリオの一人として、再出演の予定であった。

 しかし、コロナ禍による、緊急事態宣言によって、撮影が、中断され、滝藤は、『半沢直樹』及び、本作の双方への出演は、スケジュール的に不可能になり、『半沢直樹』に出演しなかった。

 滝藤は、自身の出世作に、出演できなかったことは、無念であったであろう。

 本作において、足利義昭は、最重要人物の一人であるが、『麒麟がくる』の視聴率は、『半沢直樹』に遠く、及ばなかった。

 室町幕府の足利将軍家は、将軍後継者の嫡子以外は、仏門に入るという、慣例になっていた。

 そのため、将軍の後継者としては、無論、武士としての教育さえ、受けていない。

 僧侶が、ある日、突如、将軍となって、天下の武士を束ねることなど、不可能である。

 本作は、その事実を、見事に取り入れ、義昭を、人間として、無能ではなく、武士としての能力が、皆無として、描いている。

 永禄の変によって、室町幕府の十三代将軍、足利義輝の暗殺後、覚慶は、三好三人衆により、幽閉されるが、三淵藤英を筆頭とする、奉公衆に助けられる。

 覚慶は、近江国に逃げると、還俗し、足利義昭を称した。

 しかし、義昭は、僧侶として、育ったために、全国の武士を束ねる、足利将軍、武家の棟梁が、務まるのか、自分自身、困惑している。

 実際、越前国にいた、明智光秀は、越前国の守護、朝倉義景に、足利義昭が、将軍に相応しい、器量の持ち主かを問われ、最初は、相応しくないと回答している。

 しかし、第二十五話において、義昭は、無数の蟻が、大きな羽を運ぶのを見て、自bン一人では、何もできないが、多くの人々の支えがあれば、将軍として、民を救えるのではないかと考えるようになる。

 光秀は、義昭から、「羽運ぶ蟻」の話を聞くと、家臣達が、支えれば、将軍になれる、器と考え、朝倉義景に、前言を撤回した。

 しかし、義景は、一向に上洛の兵を挙げようとしないため、光秀は、信長を頼ることを薦め、義昭の使者として、美濃国岐阜城の信長の許を訪れる。

 史実においては、この時が、光秀と信長の初対面であるが、前述の通り、本作では、既知の関係である。

 三好三人衆によって、第十四代将軍になっていた、足利義栄は、京に入れないまま、病死する。

 足利義昭は、遂に、室町幕府の第十五代将軍の就任を果たすのである。

 将軍就任後、義昭は、駒と共に庶民を救うための医療施設、「悲田処」の建設を志す。

 しかし、義昭は、傀儡に過ぎず、更に、室町幕府の実権を巡って、権力闘争が、始まっていた。

 本作にて、室町幕府の政所執事、摂津晴門を演じるのは、片岡鶴太郎。

 歴史オタクの筆者は、本作によって、摂津晴門を初めて、知った。

 奉公衆が、室町幕府の武官とすれば、政所執事は、幕府の文官の頭人である。

 室町幕府の政所は、長く、伊勢氏が、独占していたが、義輝の時代に、松永久秀が、政所執事の伊勢貞孝を討つと、その二年後、晴門が、政所執事に就任した。

 

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