評価:75点/作者:岩井淳/ジャンル:歴史/出版:2010

 

『世界史リブレット115~ピューリタン革命と複合国家』は、山川出版社の歴史シリーズ、「世界史リブレット」の第115弾。

1640年の長期議会開催に始まる、ピューリタン革命を、ブリテン諸島の複合国家体制の形成の視点から論じた、歴史解説書。

本書の作者である、岩井淳氏は、静岡大学人文学部を卒業後、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程を単位取得退学。

本書執筆時点の2010年は、静岡大学人文学部教授を務めている。専攻は、イギリス近世・近代史。

本書の他、単著は、『千年王国を夢見た革命~17世紀英米のピューリタン』、その他、複数の共著がある。

なお、筆者は、青山学院大学文学部史学科において、イギリス近代史を専攻し、1996年の卒業論文のテーマは、ピューリタン革命及び、クロムウェルであった。

筆者の卒業論文執筆時に、本書があれば、更に優れた、論文になったかと思うと、残念でならない。

筆者の高校時代、世界史の教科書には、「ピューリタン革命」の言葉が、明記されていた。

しかし、近年の研究において、十七世紀中葉のイギリスの出来事は、過去との断絶を示す、「革命」ではないと捉え、「イングランド内戦」と呼ばれることが多い。

「ピューリタン革命」の言葉の由来は、十九世紀のホイッグ史家である。それ以前には、十七世紀中葉の出来事は、「大反乱」の用語を使用していた。

議会制民主主義、自由主義を賛美する、立場のホイッグ史家が、「反乱」ではなく、輝かしい、「革命」と評価した。

1970年代に始まる、修正主義の潮流は、十七世紀中葉の出来事は、近代化の画期となる、「革命」なのかとの疑問を発し、「イングランド内戦」の言葉を使用し始めた。

その結果、過去との断絶、近代化のニュアンスを失ったのである。

しかし、本書は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの四国の複合国家体制が、ブリテン諸島に出現したとの視点から、十七世紀中葉の出来事について、「ブリテン革命」と呼ばれる、出来事として、再検討している。

サッカー、ラグビー等のスポーツでは、イングランド、ウェールズ、スコットランドは、別々の代表チームを有している。

何故、現在のイギリスを構成する、一地域に過ぎない、イングランド、ウェールズ、スコットランドが、「国」として、代表を送り出しているのか。

イングランド、ウェールズ、スコットランドの三国は、中世以来、各々、自立性の強い、国であったが、ウェールズは、1536年、スコットランドは、1707年に「合同法」によって、イングランドと統合され、1801年にアイルランドが、「連合王国」の一地域になった。

十七世紀中葉の出来事は、イングランド、スコットランド、アイルランドの三国の対立、「三王国戦争」を引き起こした。

その過程で、「ブリテン革命」と呼ぶべき、複合国家体制を確立したのである。

本書は、ピューリタン革命のみならず、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの関係と歴史を知るための必読書である。

 

[https://book.blogmura.com/bookreview/ranking_out.html" target="_blank にほんブログ村 書評・レビュー]