評価:75点/作者:高山博/ジャンル:歴史/出版:2007

 

『世界史リブレット 58~ヨーロッパとイスラーム世界』は、山川出版社の歴史シリーズ、「世界史リブレット」の第58弾。

「ヨーロッパ」、「イスラーム世界」の枠組みの検討及び、中世の文化圏の比較、交流、衝突、現代のイスラーム過激派の背景に関する、歴史解説書。

本書の作者である、高山博氏は、東京大学文学部を卒業後に、同大学院人文科学研究科西洋史学専門課程修士課程入学、その後、イェール大学大学院歴史学専攻博士課程に入学。

1988年に東京大学大学院、1990年にイェール大学大学院の博士課程を卒業している。

2004年に東京大学大学院人文社会系研究科教授に就任。専攻は、西洋中世史、地中海史。

『中世地中海世界とシチリア王国』『中世シチリア王国』『ハード・アカデミズムの時代』『「知」とグローバル化――中世ヨーロッパから見た現代世界』など、多くの単著がある。2016年には、紫綬褒章を受章した、西洋中世史、地中海史の権威である。

本書は、「ヨーロッパ」と「イスラーム世界」を、一方からのみ、考察するのではなく、両者を包含する、視点によって、考察している。

最初に、「枠組み、集団の歴史」としての「ヨーロッパ」及び、イスラーム世界を定義する。

次に、中世地中海世界の三大文化圏を比較する。ギリシア・東方正教文化圏、アラブ・イスラーム文化圏、そして、ラテン・カトリック文化圏である。

ギリシア・東方正教文化圏は、ギリシア語と東方正教会を骨格とする、東ローマ帝国=ビザンツ帝国という、単一の国家を指す。

他の二つの文化圏は、複数の政治構成体により、成立しているため、その点が、大きく、異なっている。

アラブ・イスラーム文化圏は、アラビア語及び、イスラーム教が、支配的な地域である。

この文化圏は、当初、ムハンマドとその後継者のカリフによる、一人の君主に支配される、国家であったが、八世紀以降、複数の君主へと政治権力が、分散した。

ラテン・カトリック文化圏は、ラテン語とローマ・カトリックの支配的な地域であるが、厳密には、定義できず、実際には、西ヨーロッパを指す場合が多い。

この地域は、皇帝・王・公・伯など、様々な称号を帯びた、支配者が、存在している。

中世の三つの文化圏、特に、アラブ・イスラーム文化圏、ラテン・カトリック文化圏は、異文化圏の人々と広範囲に渡って、接触していたが、イベリア半島、シチリア島において、恒常的な接触、交流が成された。

二つの文化圏は、十字軍によって、軍事的に衝突するが、フリードリヒ二世の様に、交渉によって、聖地の回復に成功した、例も存在する。

本書は、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」論を否定している。

「文明」とは、歴史概念としては、使用可能であるが、現代世界の現実の事象の分析概念としての使用は、使用者の恣意的な選択に規定されるため、不可能である。

故に、新たな世界思想の構築の必要性を説く。

本書は、ヨーロッパとイスラーム世界を知るための必読の一冊である。

 

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